試合の途中で、子供が泣き出してプレーが止まる。ベンチに下がって泣き続ける。周りの視線が痛い——。結論から言うと、目指すのは「泣かせないこと」ではなく「泣いても最後まで戦えること」です。涙は止めようとするほど長引きます。
この記事では、試合中に泣く子供の涙を4タイプに分け、その場での親の対応と、家庭でできる長期の準備をOK/NG声かけ例つきで解説します。「うちの子はどのタイプか」を確かめながら読んでみてください。
結論:涙を止めるのではなく「泣いても続けられる」を目指す
試合中に泣く子供に、多くの親はまず「泣くのをやめさせよう」とします。ですがこれは逆効果になりがちです。
理由は2つあります。1つ目は、涙は本人が意思で止められないから。「泣くな」と言われても止まらず、「止められない自分」にさらに焦って涙が増えます。
2つ目は、涙を禁止すると子供が感情そのものにフタをするから。悔しさや怖さを感じないようにする方向に進むと、勝ちたい気持ちまで薄くなります。
だから目標をずらします。「泣かない子」ではなく「泣きながらでも次のプレーに戻れる子」。ここを目指すと、親のかける言葉が変わります。
そもそも感情をコントロールする脳の働きは、小学生の段階ではまだ発達の途中です。大人と同じブレーキを求めるほうに無理があります。日本スポーツ協会「発育期のスポーツ活動ガイド」によると、発育期のスポーツでは「勝ち負けにこだわるよりも上達や努力を重視する雰囲気をつくろう」「様々な経験を積ませることでレジリエンス(困難な状況にしなやかに適応する力)を高めよう」と示されています。涙が出る場面もまた、そのレジリエンスを育てる経験のひとつです。
試合中に泣く子供の涙は4タイプある
同じ「泣く」でも中身は違います。原因が違えば有効な対応も変わります。まずタイプを見分けてください。
①悔しさの涙:勝ちたい気持ちが強すぎてあふれる
点を取られた、思ったプレーができない、負けそう。期待した結果と現実の差に耐えられず出る涙です。負けず嫌いな子に多く見られます。
見分け方:表情が険しい。悔しがりながらもプレーを続けようとする。試合後に「もっとやりたかった」と言う。
②怖さの涙:失敗やミスへの不安があふれる
「またミスしたらどうしよう」「怒られる」という不安が限界を超えたときの涙。真面目で、周りの期待を敏感に受け取る子に多いタイプです。
見分け方:ボールや順番が回ってくるのを避けようとする。コーチや親のほうをちらちら見る。体が固い。
このタイプで見落とされやすいのが、親が無意識に発している矛盾したメッセージです。「楽しめればいいよ」と言いながら、負けると不機嫌になる。子供はどちらが本音か分からず、板挟みになって不安を膨らませます。心当たりがあれば、そこが出発点です。
③怒りの涙:自分やチームメイトへの苛立ちが涙に変わる
「なんでパスをくれないんだ」「なんで自分はできないんだ」。怒りは、小学生の年代では涙という形で出てくることがよくあります。
見分け方:道具を叩く、チームメイトに文句を言う、審判の判定に不満を示す、といった行動が同時に出る。
④容量オーバーの涙:疲れと緊張でパンクする
連戦、暑さ、寝不足、大きな会場の雰囲気。心と体の余裕がなくなり、小さなきっかけで決壊するタイプです。理由を聞いても本人も説明できません。
見分け方:試合の後半や2試合目以降に出る。前日の睡眠が短い。朝から口数が少ない。泣いた理由を聞くと「わからない」と言う。
このタイプは声かけよりコンディション管理が先です。睡眠、補食、休息の見直しで大きく減ることがあります。
やりがちなNG対応3つ
タイプに関係なく、避けたい対応があります。
- 「泣くな」「泣いてる場合じゃない」……止められない涙を責める言葉。焦りが増えて長引きます。
- 「みんな見てるよ」「恥ずかしいよ」……他人の目を判断基準にさせる言葉。人前で感情を出すこと自体を怖がる子になります。
- コート・グラウンドに近づいて実況する……フェンス越しに指示を出したり慰めたりすると、子供の意識が試合から親へ移ります。プレーに戻れなくなります。
もうひとつ。試合中に泣いたことを、その日のうちに何度も話題にするのも避けたいところです。「泣いた自分」が本人の中で大きくなります。

タイプ別の声かけ【OK/NG例】
試合直後、または家に帰ってからの声かけです。試合中は原則として声をかけません(理由は次の章で説明します)。
①悔しさの涙 → 悔しさを肯定して、次の的に変える
OK声かけ
- 「あれだけ悔しいってことは、本気でやってたってことだね」
- 「泣きながらでも最後まで立ってたの、見てたよ」
- 「次の試合、1個だけ狙うとしたら何にする?」
NG声かけ
- 「泣くくらいなら練習しなさい」
- 「そんなことで泣かないの」
②怖さの涙 → 失敗の重さを下げる
OK声かけ
- 「ミスしても、お母さんの気持ちは1ミリも変わらないよ」
- 「今日は何がいちばん怖かった?」
- 「怖いのに出ていったの、すごいと思う」
NG声かけ
- 「大丈夫、次は決められるよ」(不安の中身を聞かずに結果の話に戻す)
- 「期待してるからね」
③怒りの涙 → 怒りの矛先を分けて整理する
OK声かけ
- 「腹が立ったのは、自分に? それとも別のこと?」
- 「悔しいのは分かった。道具に当たるのだけはやめよう」
- 「次に同じ場面が来たら、どうする?」
NG声かけ
- 「チームメイトのせいにするな」(気持ちの否定から入ると耳を閉じます)
- 「態度が悪い」だけで終わらせる
④容量オーバーの涙 → 言葉より回復を優先する
OK声かけ
- 「今日はよく体が動いてたよ。まず何か食べよう」
- 「話は明日でいいよ。今日はゆっくり寝よう」
NG声かけ
- 「なんで泣いたの? 理由を言いなさい」(本人にも分かりません)
- 疲れ切っている帰り道での長い反省会
試合中、その場で親がすべきこと・すべきでないこと
泣き出した瞬間、親は動きたくなります。ですが試合中の子供は、コーチとチームの管理下にいます。ここでの原則はシンプルです。
すべきこと
- 目が合ったら、うなずくか小さく手を挙げる。「見てるよ、大丈夫」だけを伝える。
- いつも通りの表情でいる。親が青ざめると「大変なことが起きた」と伝わります。
- ベンチに下がったら、まず水分と日陰・暖かい場所を確保する。体を落ち着かせると涙も落ち着きます。
- 体調不良の可能性を疑う。暑さ・脱水・腹痛が隠れていることがあります。異変があればすぐコーチに伝えます。
すべきでないこと
- コート際まで行って声をかける
- ベンチのコーチに指示を出す、交代を求める
- その場でプレー内容の説明や修正を始める
- 他の保護者に向かって謝り続ける(子供に聞こえています)
試合中の子供に必要なのは、分析ではなく「落ち着く時間」です。泣いている最中の言葉はほとんど届きません。落ち着いてから話す、が鉄則です。
周囲の視線が気になる親へ
正直なところ、いちばんつらいのは周囲の視線かもしれません。試合が止まり、チームメイトが待ち、他の保護者の目がある。「うちの子のせいで」と縮こまってしまう。
ここで持っておきたい構えが3つあります。
- 謝るのは1回だけ、短く。「お待たせしてすみません」で十分です。繰り返すと、子供が「自分は迷惑な存在」と学習します。
- コーチには事前に共有しておく。「気持ちが高ぶると涙が出ることがあります。落ち着けば戻れるので、少し時間をください」と伝えておくと、当日の対応が驚くほどスムーズになります。
- 他の家庭は、思っているほど見ていない。小学生年代で試合中に泣く子は珍しくありません。指導歴の長いコーチほど「よくあること」として扱います。
泣いても戦えるようになる家庭の準備
ここからが本題です。試合中の対応は応急処置にすぎません。涙が減っていく子には、家庭で共通した準備があります。
準備1:感情に名前をつける練習をする
涙は、言葉にできない感情の出口です。逆に言えば、言葉にできる感情は涙になりにくい。
夕食のときなどに、こう聞いてみてください。
- 「今日いちばんイヤだったのは、悔しい? 怖い? 腹が立つ?」
- 「その気持ち、10点満点だと何点くらいだった?」
選択肢を出すのがコツです。「どう思った?」だけでは小学生は答えられません。名前と強さがつけられるようになると、試合中も「今、悔しいだけだ」と自分で処理できるようになります。
準備2:泣いた後の「戻り方」を決めておく
泣くこと自体は許可します。そのうえで、戻る手順を親子で決めておきます。
- 深呼吸を3回する
- 水を一口飲む
- 「次の1本」と小さく声に出す
この3ステップを事前に決めておくと、試合中に本人が使えます。「泣いたら終わり」ではなく「泣いたらこれをやる」に変わります。
準備3:親の評価軸を結果から外す
怖さの涙は、期待の重さと比例します。前出の「発育期のスポーツ活動ガイド」でも、できる目標を定めて達成をほめることで運動有能感(自分はできるという自信)を高めることが推奨されています。
家庭での評価を「勝ったか」ではなく「決めた1つができたか」に置き換えてください。この1点だけで、涙の量が変わる家庭は多いです。
準備4:睡眠と補食を整える
地味ですが効果が大きい項目です。容量オーバーの涙は、コンディションの問題であることが少なくありません。前夜の睡眠時間、試合の合間の補食、水分。この3つを整えるだけで、後半に崩れる回数が減ります。
「急に泣かなくなった子」には注意が必要なことも
高学年になると、多くの子が人前で泣かなくなります。これは感情のコントロールが育った結果であることが大半で、喜ばしい変化です。
ただし、次のような様子が同時に出ている場合は、涙を我慢しているだけの可能性があります。
- 試合の話をまったくしなくなった
- 表情が乏しくなり、勝っても嬉しそうにしない
- 試合の朝に腹痛や頭痛を訴える
- 家で急に不機嫌になる、下の子に当たる
この場合は「泣かなくなって偉いね」ではなく、感情の出口をつくってあげてください。「勝っても悔しいときあるよね」「お父さんも試合前は今でも嫌だよ」と、親が先に弱さを見せると話しやすくなります。
体の症状が続く場合や、食事・睡眠に影響が出ている場合は、無理をさせずに小児科など医療機関に相談してください。
今日からできる行動3つ
- 今夜、感情に名前をつける質問を1つする。「今日いちばん悔しかったのって、どれ?」から始める。
- 「泣いた後の戻り方3ステップ」を親子で決める。紙に書いて、試合バッグに入れておく。
- 次の試合前に、コーチへ一言伝えておく。「涙が出ることがありますが、落ち着けば戻れます」と共有する。
試合中に泣ける子は、それだけ本気で向き合っている子です。涙をなくすことがゴールではありません。涙が出ても、次のプレーに戻れる。その力は、家庭の準備で確実に育ちます。
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よくある質問(FAQ)
試合中に泣く子供に「泣くな」と言ってはいけませんか?
おすすめしません。涙は本人の意思で止められないため、「泣くな」と言われると「止められない自分」への焦りが加わり、かえって長引きます。伝えるなら「泣いてもいいから、次の1本だけ狙おう」のように、泣くことを許可したうえで次の行動を示す言い方が有効です。
試合中に泣いたとき、親はその場で駆け寄るべきですか?
試合中の子供はコーチとチームの管理下にあるため、コート際まで行って声をかけるのは避けます。目が合ったらうなずく程度にとどめてください。ベンチに下がったら、水分補給と落ち着ける場所の確保を優先します。ただし、暑さや脱水、痛みなど体調不良が疑われる場合は、すぐにコーチへ伝えてください。
何歳くらいになれば試合中に泣かなくなりますか?
個人差が大きく、一律の目安はありません。感情をコントロールする脳の働きは小学生の段階では発達の途中で、高学年で落ち着く子もいれば中学生まで続く子もいます。年齢で焦らず、「泣いても次のプレーに戻れるか」を基準に見てください。
泣いたことを試合後に叱ってもいいですか?
涙そのものを叱る必要はありません。ただし、道具を叩く、チームメイトを責めるといった行動が伴う場合は、その行動だけを分けて伝えます。「悔しいのは分かった。道具に当たるのだけはやめよう」のように、気持ちは認めて行動だけを線引きするのがコツです。
試合中に泣くことをコーチに伝えておいたほうがいいですか?
伝えておくことをおすすめします。「気持ちが高ぶると涙が出ることがあります。落ち着けば戻れるので、少し時間をください」と事前に共有しておくと、当日の対応がスムーズになり、子供が過度に注目される場面も減ります。
急に泣かなくなったのですが、成長と考えていいですか?
多くの場合は感情のコントロールが育った結果です。ただし、試合の話をしなくなった、勝っても嬉しそうにしない、試合の朝に腹痛や頭痛を訴える、といった様子が同時に出ている場合は、我慢しているだけの可能性があります。親が先に弱さを見せて話しやすくし、体の症状が続くなら医療機関に相談してください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。



