いつも通りのキャッチボール。5メートル先の相手に、ボールが届かない。足元にたたきつける。その次は頭の上を大きく越える。昨日まで、こんなことは一度もなかった。本人は笑ってごまかそうとしているけれど、目が笑っていない。
結論から言います。子供がイップスになった時、親の仕事は「直すこと」ではありません。やめさせないことと、叱責の量を減らすこと。この2つです。技術の修正は指導者の領域で、心の治療は専門家の領域です。親にしかできないのは、本人が「投げるのが怖い自分」のままでもチームと家にいられる状態を守ることです。
そして最初の一言は「気にするな」でも「もっと練習しよう」でもありません。「今、腕がどんな感じになってる?」です。叱らず、励まさず、まず起きていることを一緒に言葉にする。ここから始まります。
この記事は、少年野球・ソフトボール・サッカー・バスケ・バレーなどで全国を目指す小学生の子が、急に投げられない・打てない・サーブが入らないという状態になった時に、家で何を言い、何を言わないかをまとめたものです。技術の直し方は扱いません。扱うのは親の関わり方だけです。
この記事の要点
- イップスは「心が弱い子」の問題ではない。大学野球選手の47.1%、中学野球部員の約42%が経験を報告している(青山ら, 2021/賀川ら, 2013)
- 見分けるカギは「距離」と「強度」。20m以内の短い送球ほど出やすく、全力より軽く投げる時に出る。遠投は普通なのに近い送球だけ乱れるなら、サボりでも下手になったのでもない
- 研究で親が一番効く場所がわかっている。症状が強い人の特徴のひとつが「ミスに対して叱責される環境にいること」(Inoue et al., 2023)
- 親の3つの逆走は、数をこなさせる・原因を問い詰める・人前で話題にする
- 声かけは直後/帰り道/その夜/翌日の4場面で役割が違う。直後にすることは「何も言わずに普通にしている」
- 休ませる判断は「上手くなるか」ではなく「競技を嫌いにならずに済むか」で決める
イップスとは何か|「心が弱い子」の問題ではない
イップスは、スポーツパフォーマンスにおける微細な運動技能の実行に影響を及ぼす、心理・神経筋の障害と定義されています(Clarke らの定義, 2015/日本心理学会の解説記事より)。「緊張しているだけ」でも「気持ちの問題」でもなく、心理面と運動面がからみ合って起きる現象として研究されている、という点がまず重要です。
そして、珍しいことではありません。青山敏之らが首都大学野球連盟1部リーグの大学硬式野球部員104名を調べた研究(「大学野球選手における送球イップスの発症率とその症状に関する探索的研究」体力科学 70巻1号, 2021年)によると、49名・47.1%が送球イップスを経験していました。同じ論文が引用している賀川らの2013年の調査では、中学野球部員529名のうち約42%が経験を報告しています。
親がまず受け取ってほしい数字
- 大学野球選手:104名中49名・47.1%が送球イップスを経験(青山ら, 2021)
- 中学野球部員:529名中約42%(賀川ら, 2013/上記論文が引用)
- 発症時の平均年齢:17.3歳(最年少11歳)。つまり小学校高学年でも起こりうる
- 症状が続いた期間:平均17.6か月(1か月〜84か月)
出典:青山敏之・阿江数通・相馬寛人ほか「大学野球選手における送球イップスの発症率とその症状に関する探索的研究」体力科学 70(1):91-100, 2021年
「17.6か月」という数字を見て、顔が青くなった方がいるかもしれません。ですがこれは平均で、1か月で収まった人もいます。ここで押さえるべきは期間の長さではなく、「数日で気合いを入れれば戻るもの」という前提を親が捨てることです。短期決戦のつもりで接すると、戻らない時間そのものが子供への圧力になります。
「イップスかも」と思ったら見るポイント|一時的な不調との違い
下手になったのか、イップスなのか。親には判断できませんし、する必要もありません。ただし「どんな時に出ているか」を観察して記録することはできます。それが後で指導者や専門家に相談する時の材料になります。前出の青山らの研究が示した症状の出方は、観察の手がかりになります。
| 観察ポイント | イップスに多い現れ方 | 一時的な不調に多い現れ方 |
|---|---|---|
| 距離 | 短いほど出る。20m以内で中等度以上の頻度が約50%、50m以上では8.1% | 距離が長いほど乱れる(単純に力・技術の不足) |
| 強度 | 全力より、軽い〜中等度で投げる時に出やすい | 全力時にフォームが崩れる |
| 場面 | バッティングピッチャーのような「正確さだけを求められる場面」で最多(72.3%) | 疲れている時・試合終盤に増える |
| 暴投の方向 | 方向が一定なのは14.3%だけ。毎回違うところへ行く | 同じ方向に外れる(フォームのクセ) |
| 本人の感覚 | 「どれくらい力を入れればいいか分からない」85.7%/「どう動かすか分からない」75.5% | 「分かっているのに体が追いつかない」 |
| 体の感じ | 余計な力が入る75.5%/腕が固まる67.3%/指先の感覚が鈍い73.5% | 筋肉痛・だるさなど疲労由来 |
注目してほしいのは「距離が短いほど出る」という点です。外野からの返球は問題ないのに、ベンチの仲間への山なりのトスが宙に浮く。親から見ると「ふざけている」「気を抜いている」ようにしか見えません。一番やる気がないように見える瞬間が、本人が一番苦しんでいる瞬間である——この順序を知っているかどうかで、かける言葉が変わります。
家でできる観察メモ(3行でいい)
- いつ:日付と、練習/試合/アップのどの場面か
- どこで出た:距離(何メートルくらい)と強度(全力/軽く)
- 本人の言葉:「腕が止まる」「手から離れない」など、言ったままを書く
このメモは子供に見せる必要はありません。相談の時に「2週間でこういう出方でした」と言えると、話が一気に早くなります。
なぜ小学生で起きるのか|「ちゃんとしている子」ほど起きやすい
前出の研究では、ポジション別の発症率に統計的な有意差はなかったとしつつ、実数は次のようになっています。捕手54.2%、内野手53.1%、投手41.9%、外野手35.3%。短い距離で、正確さを、しかも速く求められる役ほど数字が高いという並びです。
ここから見えるのは、イップスが「下手な子に起きる」のではないということです。むしろ任される役を持ち、外してはいけないと思っている子に起きています。全国を目指すチームでレギュラーを張っている子は、まさにその条件に当てはまります。
小学生で起きる場合、引き金になりやすいのは次のような出来事です。あくまで保護者からよく聞く経緯であって、原因が科学的に特定されているわけではありません。
- 大事な場面で暴投して、その回に失点した
- 送球が逸れて、味方にボールを当ててしまった
- ミスのあと、指導者に全員の前で名前を呼ばれて指摘された
- ポジションが上がって、求められる送球の精度が急に変わった
- 「お前が投げれば大丈夫」と言われ続けていた
共通しているのは、「投げる」が「評価される」に変わった瞬間があることです。ボールを投げる動作そのものは昨日までと同じなのに、頭の中で扱われ方が変わる。そこから崩れます。
研究が示す、親が一番効く場所は「叱責の量」
ここが本題です。井上和哉・山田達人・大月友の研究(Relationships Between Throwing Yips in Baseball, Experiential Avoidance, Cognitive Fusion, Values, and Social Factors, Journal of Clinical Sport Psychology, 2023年)は、中学生から社会人までの野球経験者292名を調べ、送球イップスの症状が強い人に3つの特徴があったと報告しています。
- 送球が上手くいった時に「失敗しなくてよかった」と感じる程度が高い(成功を喜ぶのではなく、失敗を回避できた安堵として受け取っている)
- 自分の思考にとらわれる傾向が強い(「また逸れたらどうしよう」が頭から離れない)
- ミスに対して、チームメイト・コーチ・監督から叱責されることが多い環境にいる
研究者らは、失敗しないようにプレーする姿勢を見直すこと、思考から距離を置くこと、そして指導者が叱責のあり方に配慮することの重要性を指摘しています。
ここが親の持ち場
3つの特徴のうち、①と②は本人の内側の話で、親が直接いじれるものではありません。ですが③の「叱責される環境」には、家庭が含まれています。
グラウンドでの指導者の言い方は変えられなくても、家に帰ってからの数時間を叱責ゼロにすることは、今日からできます。そして多くの家庭で、ここが一番手つかずになっています。
注意したいのは、「叱責」は怒鳴ることだけではないという点です。ため息、沈黙、「で、今日はどうだったの?」という確認の口調、帰りの車の空気。本人にとっては全部、評価の言葉として届きます。

親の3つの逆走|よかれと思ってやると悪化する
逆走1:「数をこなせば戻る」と、キャッチボールを増やす
最も多い対応で、最も危険な対応です。前出の研究が示す通り、症状は短い距離・軽い強度でこそ出やすい。つまり親子の壁当てやキャッチボールは、本人にとって一番出やすい形式そのものです。
そこで何球も失敗を重ねれば、「やっぱり自分はできない」という経験だけが積み上がります。練習量ではなく、失敗しない形から再開することが必要で、その設計は指導者か専門家の仕事です。親が勝手に特訓を始めないでください。
逆走2:原因を探して問い詰める
「いつからなの?」「何かあったの?」「あの試合のあとでしょ?」。心配から出る言葉ですが、これは本人に原因を何度も思い返させることになります。研究が挙げた特徴の②「自分の思考にとらわれる傾向」を、家庭で強化してしまう形です。
聞くなら、原因ではなく今の状態です。「どんな感じ?」は答えられますが、「なんで?」は答えられません。
逆走3:人前で話題にする・冗談にする
他の保護者に「うちの子、最近投げられなくてね」と話す。親戚の前で「イップスなんだって」と笑いに変える。本人にとっては、隠したいことを勝手に公開されたという体験です。チーム内で知られていくスピードも、親が思うより速い。
話していいのは、本人の許可を取った相手だけです。「コーチには伝えておいていい?」と、一度聞いてください。
場面別の声かけ|直後/帰り道/その夜/翌日
場面1:暴投した直後(グラウンドで)
この場面で親がすべきことは、何も言わず、普通にしていることです。声をかける必要はありません。顔をしかめない、目をそらさない、立ち上がらない。これだけで十分な仕事です。
子供は暴投した瞬間、まず親の方を見ます。そこで親が「あちゃー」という顔をしたら、次の1球はもっと投げられなくなります。
OK声かけ例
- (何も言わない。いつも通りの顔で見ている)
- 「おー、ナイスファイト」(他の子と同じトーンで、全員に向けて)
- (終わってから)「お疲れ。暑かったな」
NG声かけ例
- 「落ち着いて!」(本人が一番落ち着けないことを言われる)
- 「腕振って!」(技術的な指示は親からしない)
- (ため息・腕組み・首を振る。言葉より強く届く)
場面2:帰り道の車の中
一番危ないのがここです。親子が二人きりで、逃げ場がなく、親の中に言いたいことがたまっている。この20分を無言で越えられたら、その日は成功と考えていいくらいです。
話すなら、競技の話を外してください。昼ごはんの話、学校の話、音楽でもいい。「触れない」ことが冷たさではなく、「この件は家に持ち込まない」という宣言になります。
OK声かけ例
- 「腹減ったな。何食べたい?」
- 「今日、寒かったな。手、冷たくなかった?」(体の話なら本人が話しやすい)
- (本人が切り出したら)「うん、聞くよ」
NG声かけ例
- 「今日はどうだった?」(評価を求められていると受け取る)
- 「コーチ、何か言ってた?」
- 「お父さんの時はこうやって直した」(自分語りは逃げ場を塞ぐ)
場面3:その夜、家で
本人が話し始めたら、ここが一番大事な場面です。やることは「状態を一緒に言葉にする」こと。解決しようとしないでください。
「腕が止まる感じ?」「手から離れない感じ?」と聞くと、本人はうなずいたり首を振ったりできます。前出の研究で挙がっていた「どれくらい力を入れればいいか分からない(85.7%)」「腕が固まる(67.3%)」という表現は、そのまま使えます。自分だけの異常だと思っていたものに名前がつくだけで、肩の力が少し抜けます。
OK声かけ例
- 「腕が勝手に止まる感じ? それとも力加減が分からない感じ?」
- 「それ、イップスっていう名前がついてる。けっこう多いらしいよ」
- 「直し方は分からんけど、一緒に調べる人を探すのは手伝える」
- 「投げられない日のお前も、別にふつうに好きだよ」
NG声かけ例
- 「気にしすぎだよ」(軽く扱われたと受け取る)
- 「メンタル弱いんじゃない?」
- 「明日は大丈夫だよ、きっと」(根拠のない保証は翌日に効かない)
- 「お母さん見てられないよ」(親の感情を背負わせる)
場面4:翌日、練習に行く前
朝、玄関で足が止まる日があります。ここで送り出すか休ませるかは後述しますが、行くと決めたなら、目標を「うまく投げる」から外してあげてください。
「今日は1球も成功しなくていい。行って、帰ってくるだけで合格」。これは甘やかしではなく、失敗回避の姿勢をほどくという、研究が示した方向そのものです。
OK声かけ例
- 「今日は行くだけで十分。それ以上は望んでない」
- 「全部暴投でも、こっちは何とも思わないから」
- 「しんどかったら途中で抜けていいよ。迎えに行く」
NG声かけ例
- 「今日こそ普通に投げよう」
- 「コーチに見てもらいなさい」(本人はもう十分意識している)
- 「昨日あれだけ練習したんだから」(期待の提示は圧力になる)
「もう行きたくない」「ポジションを代わりたい」と言われた時
イップスで一番つらいのは、ボールが逸れることではなく、チームの中で自分の位置が崩れていくことです。「代わりたい」は逃げの言葉に聞こえますが、実際には本人なりの生き残り策であることが多い。
即答しないでください。その場で「そんなこと言うな」も「いいよ、代わってもらおう」も、どちらも早すぎます。選択肢を3つ並べて、本人に選ばせる形にします。
| 選択肢 | 向いている状態 | 親の伝え方 |
|---|---|---|
| 続ける(同じ役のまま) | 症状が出るのは一部の場面だけ。本人にその役への執着がある | 「しんどいけど続けたいなら、こっちは何も言わずに付き合う」 |
| 一時的に役を変える | 毎回出る。試合に出るたびに失点に直結して本人が壊れかけている | 「しばらく別のところで動いて、戻りたくなったら戻ればいい」 |
| 休む(期間を決めて) | 食事・睡眠に影響が出ている。競技以外でも元気がない | 「2週間休もう。やめるわけじゃない。日付を決めて休む」 |
大事なのは、どれを選んでも「負け」にしないことです。「代わるのは逃げじゃない。今の自分に合う場所を選んだだけ」と、親が先に言葉にしておくと、本人は選べるようになります。
練習を休ませる判断|4つのサイン
判断の基準は「上手くなるかどうか」ではありません。「競技を嫌いにならずに済むかどうか」です。次のうち2つ以上が2週間続いたら、期間を決めて休ませることを検討してください。
| サイン | 見るところ | 親の動き |
|---|---|---|
| 練習の前日・当日に体調を崩す | 腹痛・頭痛・吐き気。病院で異常なしと言われる | 「体が先に言ってる」と受け止め、休ませる日を作る |
| 競技以外の場面でも元気がない | 学校の話をしない・食欲が落ちる・寝つきが悪い | 競技から一度離す。スクールカウンセラーにも相談可 |
| 「行きたくない」が3回以上出る | 冗談めかして言う場合も含める | 理由を問わず「じゃあ今週は休もう」と一度受ける |
| 自分を責める言葉が増える | 「自分のせいで負けた」「いない方がマシ」 | すぐに専門家へ。親だけで抱えない |
「休ませたら戻れなくなる」が心配な時
多くの親が怖がるのはここです。ですが休ませた子が戻れなくなるのは、「いつまで休むか決めずに休んだ」場合がほとんどです。
「〇月〇日まで休む。その日に、続けるかもう一度話す」と日付を切ってください。終わりが見えている休みは、逃走ではなく回復になります。
今日からできる3つのこと
1. 「どうだった?」を「どこが楽しかった?」に変える
帰宅後の第一声を、今日から変えてください。「どうだった?」は結果を聞く質問で、本人の中で「失敗しなかったか」の確認に変換されます。研究が指摘した「失敗回避の姿勢」を、毎日家庭で強化していることになります。
代わりに「今日、どこが楽しかった?」「誰と一番しゃべった?」と聞く。答えが「別に」でも構いません。質問の種類が変わったことは伝わります。
2. 評価のない体の時間を、週1回つくる
的当てでも壁当てでもなく、うまい・下手の判定が存在しない運動です。自転車、散歩、鬼ごっこ、親とのバドミントン、川で石を投げる。狙いは「体を動かす=採点される」という結びつきを一度ほどくことです。
石を投げる遊びは特にいい、という声を保護者からよく聞きます。狙う的がなく、距離も強度もバラバラで、外れるという概念がないからです。ただし「ほら、投げられるじゃん」とは絶対に言わないでください。その一言で、遊びが検査になります。
3. 指導者に「叱責を減らしてほしい」を角を立てずに伝える
前出の研究が示した3つ目の特徴は、環境の問題です。そして環境に手を入れられるのは、本人ではなく大人です。ただし「怒らないでください」とそのまま言えば角が立ちます。お願いではなく情報共有の形にしてください。
指導者への連絡文例(短い方が伝わります)
「いつもありがとうございます。最近◯◯の送球が乱れている件ですが、本人に聞くと『腕が止まる感じがする』と言っています。調べたところイップスという症状に近いようで、短い距離や軽く投げる時ほど出やすいそうです。技術的なことは全てお任せしますが、しばらく結果について本人に声をかけるのを控えていただけると助かります。本人もどうにかしようとしているところです。」
ポイントは3つ。①症状名を出して「怠けではない」と共有する ②技術面は口を出さないと明言する ③お願いは1つだけに絞る。
専門家に相談する目安と、どこに相談するか
「専門家に相談を」で終わらせないために、目安と窓口を具体的に書きます。
相談を考える目安
- 症状が1か月以上続いている
- 競技以外の生活(睡眠・食事・学校)に影響が出ている
- 投げる・打つ動作で痛みを伴う(前出の研究では24.5%が痛みを報告。整形外科的な問題が隠れている場合がある)
- 本人が「自分はダメだ」という言い方を繰り返す
相談先の選択肢
| 相談先 | 向いているケース | 探し方 |
|---|---|---|
| スポーツメンタルトレーニング指導士 | 心理面の支援を受けたい。競技復帰を前提に相談したい | 日本スポーツ心理学会の資格者名簿から地域で探す |
| 整形外科・スポーツドクター | 痛みやしびれを伴う。神経や筋の問題を除外したい | 日本スポーツ協会の公認スポーツドクター検索 |
| スクールカウンセラー | 学校生活にも影響が出ている。まず無料で相談したい | 学校を通して予約 |
| チームの指導者・トレーナー | 練習メニューの調整を相談したい | 上記の連絡文例を使って先に状況共有 |
相談の時は、先ほどの観察メモ(いつ・距離と強度・本人の言葉)を持っていってください。「最近調子が悪くて」より、「2週間前から、20メートル以内の送球でだけ出ます。本人は腕が止まると言っています」の方が、話が何倍も速く進みます。
競技別|イップスはこういう形で出る
野球の送球だけの話ではありません。正確さを求められる、小さく繊細な動作があるスポーツなら、どの競技でも起こりえます。親が「うちの子の競技にはない」と思い込んでいると、発見が遅れます。
| 競技 | 出やすい動作 | 親が誤解しやすい見え方 |
|---|---|---|
| 野球・ソフトボール | 近い距離の送球、投手の制球、捕手から投手への返球 | 「ふざけて投げている」 |
| サッカー | 近距離のパス、PK、ゴールキーパーのキック | 「集中していない」 |
| バスケットボール | フリースロー、近くの味方へのパス | 「練習では入るのに本番で緩む」 |
| バレーボール | サーブ(特にジャンプサーブ)、セッターのトス | 「サーブだけ下手になった」 |
| 卓球・テニス・バドミントン | サーブ、短いタッチのショット | 「変なクセがついた」 |
| 弓道・アーチェリー・射撃 | 離れ・リリース | 「気持ちが入っていない」 |
| ゴルフ | 短いパット | 「大事な場面で緩む」 |
共通するのは、力を抜いて、正確に、人に見られながら行う動作だという点です。豪快な動作では起きにくく、繊細な動作で起きる。だからこそ、周囲から「やる気の問題」に見えてしまいます。
OK/NG声かけ例まとめ
| 場面 | OK | NG |
|---|---|---|
| 暴投した直後 | 何も言わない/いつも通りの顔 | 「落ち着け」「腕振って」/ため息 |
| 帰りの車 | 「腹減ったな、何食べたい?」 | 「今日はどうだった?」 |
| その夜 | 「腕が止まる感じ? 力加減が分からない感じ?」 | 「気にしすぎ」「メンタル弱いんじゃない」 |
| 名前を教える時 | 「イップスっていう名前がついてる。多いらしいよ」 | 「病気じゃないんだから」 |
| 翌朝 | 「行って帰ってくるだけで合格」 | 「今日こそ普通に投げよう」 |
| 代わりたいと言われた | 「代わるのは逃げじゃない」 | 「そんなこと言うな」/即「いいよ辞めな」 |
| 少し良くなった日 | 「お、今日は長くやってたな」 | 「ほら、やればできるじゃん」(次に出た時の落差が大きい) |
| 練習を見ていて | (見ない日をつくる) | 「〇球中〇球成功したね」(採点は家に持ち込まない) |
最後の「少し良くなった日」に注意してください。親が喜びすぎると、翌日の1球に重さが乗ります。嬉しくても、トーンは1段下げる。これが一番難しく、一番効きます。
まとめ|1年後に残るのは、記録ではなく「やめなかった」こと
イップスは、努力の量では解けません。むしろ努力の量を増やすほど固くなる種類の問題です。だから親が「何とかしてやろう」と前に出た家庭ほど、こじれやすい。
前出の研究が示したのは、症状の強さと叱責される環境が結びついているということでした。裏を返せば、家が叱責のない場所であり続けることには、意味があるということです。技術は戻るかもしれないし、時間がかかるかもしれない。ですが、「投げられない自分でも家では普通にしていられた」という記憶は、競技を続ける土台として残ります。
今日やることは3つだけです。帰宅後の第一声を「どこが楽しかった?」に変える。採点のない体の時間を週に1回つくる。指導者に連絡文例を送る。それ以上は、やらない方がうまくいきます。
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小学生でもイップスになりますか?
なります。大学野球選手104名を調べた青山らの研究(2021年)では、発症時の平均年齢は17.3歳でしたが、最年少は11歳でした。小学校高学年は、ポジションが固定され、送球の正確さを求められ始める時期で、条件がそろいます。「小学生のうちは気のせい」と片づけないでください。
練習量を増やせば治りますか?
逆効果になることが多いです。同じ研究によると、症状は20メートル以内の短い距離で約50%の選手に出て、50メートル以上では8.1%まで下がります。また全力より軽く投げる時に出やすいとされています。親子のキャッチボールはまさにその条件なので、回数を増やすと失敗体験だけが積み上がります。練習の再設計は指導者か専門家に任せてください。
親はコーチに言った方がいいですか?
伝えた方が本人は楽になりますが、必ず先に本人の許可を取ってください。伝える時は「怒らないでほしい」ではなく、「イップスという症状に近いようです。技術面は全てお任せします。しばらく結果について声をかけるのを控えていただけると助かります」と、情報共有+お願い1つの形にすると角が立ちません。
どれくらいで治りますか?
個人差が大きく、断言できません。青山らの研究では症状が続いた期間は平均17.6か月で、1か月から84か月までの幅がありました。親が短期で区切ると、戻らない時間そのものが子供への圧力になります。「来月の大会まで」と期限を切らず、生活が崩れていないかを基準に見てください。
「気にするな」と言ってはいけないのですか?
励ましのつもりでも、本人には「真剣に受け取ってもらえなかった」と届きやすい言葉です。代わりに状態を一緒に言葉にしてください。「腕が止まる感じ? 力加減が分からない感じ?」と聞くと、うなずくだけで答えられます。自分だけの異常ではないと分かるだけで、力が抜けることがあります。
ポジションを変えてもらうのは逃げですか?
逃げではありません。前出の研究では発症率が捕手54.2%、内野手53.1%と、短い距離で正確さを求められる役ほど高い傾向がありました。役を一時的に変えることは、症状が出にくい環境に移るという合理的な選択です。親が先に「代わるのは逃げじゃない」と言葉にしておくと、本人が選べるようになります。
競技をやめさせた方がいいですか?
すぐに結論を出さないでください。おすすめは、やめる・続けるの二択ではなく「日付を決めて休む」ことです。2週間なり1か月なり終わりを決めて休み、その日にもう一度話す。終わりが見えている休みは逃走になりません。ただし睡眠や食事に影響が出ている、自分を責める言葉が増えているという場合は、休ませたうえで専門家に相談してください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。



