冬の試合で立ち上がりが悪いのは、気合いが足りないからではありません。アップしてから出番までに体が冷えているだけです。直すのは心構えではなく、体温と時間割です。
夏なら、少し早くアップを終えても大きな問題にはなりません。でも冬は違います。アップで上げた体温は、何もしなければ十数分で下がり始めます。「ちゃんとアップしたのに最初の数分がボロボロだった」という冬特有の失敗は、ほぼここで起きています。
この記事では、寒いと体が動かなくなる仕組みを数字で確認したうえで、待機時間が長い大会で体温を落とさない時間割、出番直前2分でできる再アップ、そして立ち上がりが悪かった日の声かけまで、親が家と会場でできることだけをまとめます。
この記事の結論(先に3行)
1. 立ち上がりの悪さの正体は「アップの質」ではなく「アップから出番までの空白時間」。
2. やることは出番から逆算した時間割と、直前2分の再アップ。長いアップをもう一度やる必要はない。
3. 親の声かけは「気合い入れろ」ではなく「出番の何分前に体を起こす?」という段取りの確認に変える。
【タイプ判定】タイプ: A(悩み解決型)

結論:冬の立ち上がりの悪さは心構えより「体温と時間割」の問題
まず、親がいちばん言ってしまいがちな一言を外しておきます。
「寒いからって言い訳するな」。
これは、冬の立ち上がりに関しては事実としても間違っています。寒さで体が動かないのは言い訳ではなく、測れば数字に出る現象です。
そして、ここが大事なところですが、原因が体温なら、対策は精神論ではなく段取りになります。段取りは親が手伝えます。気合いは手伝えません。だから冬の立ち上がりは、親が関与できる数少ない領域のひとつです。
具体的に何が起きているか。整理するとこうなります。
| 冬によくある流れ | 体の中で起きていること | 結果 |
|---|---|---|
| 集合してアップ30分 | 筋肉の温度が上がり、関節も動くようになる | この時点では問題なし |
| アップ終了。整列・開会式・前の試合待ちで20〜40分 | 動いていないので体温が下がる。汗が冷えてさらに奪われる | アップの効果がほぼ消える |
| 試合開始。いきなり全力 | 冷えた筋肉で急な全力。動きが固く、反応も遅い | 立ち上がりの数分で失点・凡ミス |
| 中盤から動けてくる | 試合の中でようやく体温が戻る | 「後半は良かったのに」が毎回起きる |
「後半は普通だった」「途中から動けてきた」が毎回なら、実力の問題ではなく、試合開始時点の体温が足りていないだけと考えて間違いありません。
チェック:あなたの子はどちらのタイプ?
A:夏も冬も立ち上がりが悪い→ 緊張・ルーティンの問題。この記事の後半(緊張との重なり)と、本番の準備の記事が役に立ちます。
B:夏は普通なのに冬だけ立ち上がりが悪い→ ほぼ確実に体温と時間割の問題。この記事の時間割と再アップだけで変わります。
寒いと体が動かない仕組み|筋温・可動域・反応速度
「寒いと動けない」を、もう少し分解します。冬に落ちるのは3つです。
① 筋温(筋肉そのものの温度)
筋肉は、温度が高いほど速く強く縮みます。だからアップは「心を落ち着ける儀式」ではなく、筋肉の温度を上げる作業です。
どのくらい変わるのか。サッカー選手を対象にした研究に、はっきりした数字があります。
MohrらがScandinavian Journal of Medicine & Science in Sports(2004年、14巻3号156〜162ページ)に発表した研究によると、競技レベルの選手25名の筋温は、安静時36.0℃から、試合前のウォームアップ後には39.4℃まで上がっていました。前半の間はこの温度が保たれます。
問題はハーフタイムです。座って休んだ条件では、筋温は37.4℃まで下がりました。ピーク時から約2℃の低下です。そして後半開始直後のスプリント能力は2.4%低下していました。筋温の低下幅とパフォーマンスの低下幅には相関(r=0.60)も確認されています。
一方、ハーフタイムに低強度の運動(再ウォームアップ)を行った条件では、筋温もスプリント能力も落ちませんでした。
この研究が冬の立ち上がりに直結する理由
この研究はハーフタイムの話で、対象は大人の選手です。ただ、「アップで温めた体が、十数分じっとしているだけで2℃下がり、その分だけ速さが落ちる」という仕組みは、ハーフタイムでも、アップから試合開始までの待機時間でもまったく同じです。
そして冬の大会では、ハーフタイムよりアップ後の待機時間のほうがずっと長い。開会式、整列、前の試合の終了待ち。20分、30分は普通にあります。気温が低ければ下がり方はさらに速くなります。
2.4%と聞くと小さく感じるかもしれません。でも50mを8秒で走る子にとっての2.4%は、約0.2秒です。ボールへの到達が0.2秒遅れるという意味です。相手に先に触られるか、自分が先に触れるかが入れ替わる差です。
② 関節の可動域(動かせる範囲)
体が冷えると、筋肉や腱が硬くなり、動かせる範囲が狭くなります。
子供に出る症状はわかりやすいです。
- 肩が上まで回らない(野球の送球、バレーのスパイク、水泳)
- 股関節が開かず、足が前に出ない(サッカー、陸上)
- しゃがみ込みが浅い(バスケのディフェンス、卓球の低い構え)
- 上半身がねじれない(バッティング、テニス)
ここで冬に起きがちな失敗がひとつあります。寒いまま、最初にじっくり静的ストレッチをしてしまうことです。
青森県サッカー協会医科学委員会の笹川隆人氏(笹川鍼灸接骨院)と山本祐司氏(弘前大学整形外科)による医科学コラム「サッカーにおけるウォーミングアップ」(No.29、2019年1月)によると、ウォーミングアップの順番は①有酸素運動 →②静的ストレッチ →③動的ストレッチ →④競技の専門的な動きとされています。そして同コラムは、静的ストレッチは「筋温が十分に上がっていない状態で行った場合に」パフォーマンスを低下させうると明記しています。静的ストレッチの時間は15秒程度でよく、30〜60秒と長く伸ばす必要はないとも述べられています。
つまり順番が逆になると、冬は損をします。寒い中でいきなり長く伸ばすのではなく、まず軽く動いて温める。これだけで立ち上がりは変わります。
③ 反応速度と細かい感覚
冷えると、指先や足先の感覚が鈍くなります。手足の末端は、体温を守るために血流が絞られる場所だからです。
結果として、こうなります。
- ボールのタッチが大きくなる(感覚が鈍いので力加減がつかめない)
- バットやラケットの握りが強くなりすぎる
- キャッチミス、ハンドリングミスが増える
- 「いつもと同じに蹴ったのに飛ばない」
冬の立ち上がりのミスは、技術が落ちたのではなく、感覚が一時的に鈍っているだけです。ここを混同して「下手になった」と言ってしまうのが、親のいちばん大きな事故です。
「アップしたのに動けない」が冬だけ起きる理由|効果は20分で薄れていく
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。
アップの効果には、賞味期限があります。
この「経時的な薄れ方」は、いま実際に研究されているテーマです。北海道科学大学が臨床研究実施計画として登録している研究(jRCT1010230064)は、10℃の寒冷環境でウォーミングアップの強度を3条件(最大酸素摂取量の60%で15分、80%で15分、80%で11分15秒)に変え、ジャンプ能力(カウンタームーブメントジャンプ)をアップ前・直後・10分後・20分後に測定するという設計です。
注目してほしいのは、この測定タイミングです。「10分後」「20分後」をわざわざ測るということは、研究者がその時間帯でアップの効果が変わると考えているからです。
親の実感としての目安は、こう持っておくと行動が決まります。
| アップ終了からの経過 | 体の状態(寒い会場での目安) | 出番が来たときどうなるか |
|---|---|---|
| 0〜5分 | まだ温かい。汗も乾いていない | 問題なく動ける |
| 5〜15分 | 表面から冷え始める。汗が冷たくなる | やや固いが、動けば戻る |
| 15〜30分 | 筋温が明確に下がる。足先・指先が冷たい | 立ち上がりが悪くなる領域 |
| 30分以上 | アップ前に近い状態。体が縮まる | ほぼアップしていないのと同じ |
冬の大会で実際に起きている時間
8:30集合 → 8:40〜9:10アップ → 9:15整列・開会式 → 9:40第1試合開始。
この流れだと、アップ終了から試合開始まで30分。表の最下段です。「ちゃんとアップしたのに動けない」のは当然で、子供のせいではありません。
そしてもうひとつ、冬だけの落とし穴があります。汗冷えです。
アップでかいた汗が、そのまま肌に残ると、水分が蒸発するときに体から熱を奪い続けます。つまりじっとしているだけでなく、濡れたまま待つことで冷え方が加速する。「アップを頑張った子のほうが立ち上がりが悪い」という逆転が、冬だけ起きるのはこのためです。
ウェアの選び方と脱ぎ着のタイミングは、冬の試合の防寒|屋外スポーツをする子供のウェアと当日の親の準備リストで詳しく扱っています。この記事は、その「装備」ではなく「時間」の側を担当します。
緊張と寒さが重なると何が起きるか
冬の大会は、寒さと「大事な試合」が同時に来ます。予選や代表決定戦が冬に集まる競技は多いからです。
このとき、2つが重なって悪化します。
重なり方①:緊張で体が縮むので、さらに冷える
緊張すると、体は自然に縮みます。肩が上がり、腕を体に寄せ、呼吸が浅くなる。これは「熱を逃がさない姿勢」でもありますが、同時に筋肉が動かない姿勢でもあります。動かないから熱が生まれず、結果としてもっと冷えます。
重なり方②:寒さを「緊張のせい」と誤解する
ここが実務的に重要です。
震え、手の冷たさ、お腹が落ち着かない、トイレが近い。これは緊張でも寒さでも同じように出ます。だから子供自身も親も、寒さが原因のサインを「自分は緊張しすぎている」と読み違えることがあります。
そして「緊張している」と自己診断した子は、気持ちを落ち着けようとしてさらに動かなくなります。じっと座って深呼吸する。これは緊張には効きますが、寒さには逆効果です。
| 症状 | 寒さが主な原因のとき | 緊張が主な原因のとき | 見分け方 |
|---|---|---|---|
| 手が震える | 指先が冷たく、白っぽい | 手は温かいまま震える | 手の甲を触る |
| 動きが固い | アップ直後は動けていた | アップから固い | アップ中の様子を思い出す |
| 落ち着かない | 体を揺らす・足踏みする | 体が止まって黙る | 動きが多いか少ないか |
| 表情 | 顔色が悪い・唇の色が薄い | 顔は赤い・汗ばむ | 唇と顔色 |
手の甲が冷たければ、まず温める。手の甲が温かいのに震えているなら、呼吸や声かけの話です。この1つの確認で、打つ手が変わります。
緊張そのものの対処は、試合前に心臓がドキドキする子への呼吸法|出番直前3秒でできる技と3つの型と、同じ日に公開したトーナメントに弱い子供|負けたら終わりの試合で緊張して固まる原因と親の準備にまとめてあります。
会場の構造で冷え方は変わる|体育館・屋外・プール
同じ冬でも、会場によって対策は違います。「うちの競技はどれか」を先に決めてください。
| 会場 | 冷える理由 | とくに冷える部位 | 優先する対策 |
|---|---|---|---|
| 屋外グラウンド (サッカー・野球・陸上) | 風で熱が奪われる。地面からも冷える | 指先・つま先・耳 | 風をさえぎる。汗を拭いて着替える |
| 体育館 (バスケ・バレー・卓球・剣道) | 暖房がない。床が冷たい。意外と風が通る | 足裏・ふくらはぎ | 床に直接座らない。靴下・長ズボンで待つ |
| プール (水泳) | 上がった瞬間の気化熱。待機が長い | 全身(とくに肩) | バスタオル+上着を即。肩を回し続ける |
| 屋外コート (テニス・ソフトボール) | 日陰と日向の差が大きい | 手指(道具を握る手) | 日向で待つ。握力を使う動きを入れる |
体育館で見落とされやすいのが「床に座って待つ」です。冷たい床に接している面から熱はどんどん逃げます。ベンチがなければ、カバンやタオルの上に座るだけで変わります。
水泳は構造がもっと厳しいです。レース間隔が長く、濡れた体で待ちます。「上がったらすぐ拭いて着る」を徹底できるかどうかで、2本目以降のタイムが変わります。
体育館という会場そのものの緊張については体育館の観客が多いと緊張する子供への対策も参考になります。

待機時間が長い大会での体温の保ち方|出番から逆算して時間割にする
ここから具体策です。
やることは1つだけ。アップを「集合時間」ではなく「出番」から逆算することです。
多くのチームでは、アップの時間はコーチが決めます。親が変えられるものではありません。でも、そのあとの空白をどう使うかは、子供と親で決められます。
逆算タイムテーブル(第1試合・9:40開始の例)
| 時刻 | やること | 目的 |
|---|---|---|
| 8:30 | 集合。すぐ上着を脱がない | 集合前に冷やさない |
| 8:40〜9:10 | チームのアップ | 筋温を上げる |
| 9:10 | 汗を拭く → 乾いたインナーに着替える → 上着を着る | 汗冷えを断つ(最重要) |
| 9:15〜9:35 | 整列・開会式。立っている間はかかとの上下、足踏み | 完全に止まらない |
| 9:35 | 直前2分の再アップ(次章) | 筋温を戻す |
| 9:38 | 上着を脱ぐ。最初の1プレーを口に出す | 体と頭を同時に戻す |
| 9:40 | 試合開始 | — |
この表で親がやるのは2つだけ
1. 9:10に乾いたインナーを渡す。(声かけではなく物を渡す)
2. 9:35に「そろそろ」と時計を見せる。(内容は言わない。タイミングだけ)
持ち物:これだけで冬の立ち上がりは変わる
- 乾いた替えのインナー1枚(最優先。アップ後に着替える専用)
- タオル2枚(拭く用と、床に敷く/座る用)
- ベンチコートまたは中綿の上着(アップ後に羽織る用)
- 長い靴下、または脚を覆えるもの
- カイロ(貼るタイプではなく、手で握るタイプ。手の甲を温める)
- 温かい飲み物(内側から温める。水筒に入れて)
- レジャーシートか座る用の敷物(体育館・土のグラウンド)
「厚着させる」ではなく「汗を切り替えられるようにする」が冬の正解です。厚着のまま汗をかくと、あとでもっと冷えます。
冬の飲み物については冬の水分補給|スポーツする子供が汗が見えなくても脱水する仕組みと親の準備で詳しく書いています。冬は汗が見えないぶん、脱水に気づきにくく、脱水も動きの固さにつながります。
連戦・待ち時間が長い日の過ごし方
トーナメントで勝ち進む日は、試合と試合の間が1〜2時間空くことがあります。このとき「完全に休む」が最悪の選択になります。
- 試合終了後:すぐ汗を拭いて着替える(これを毎試合やる)
- 30分:座ってよい。食べる・飲む・休む
- 次の試合の40分前:立ち上がる。歩く。ストレッチはここから
- 次の試合の20分前:軽く走る・動く(本格的なアップ)
- 次の試合の5分前:直前2分の再アップ
待ち時間の使い方は試合の待ち時間の過ごし方|連戦で集中を切らさない小学生のサポートに60分・120分のタイムテーブルがあります。冬はそこに「汗冷えを断つ」を足してください。
出番直前2分でできる再アップ3種
長いアップをもう一度やる必要はありません。むしろ、やる時間もスペースもないのが普通です。
必要なのは、「筋温を少し戻す」+「競技の動きを1回通す」だけ。2分で足ります。
① 下半身を起こす(40秒)
- その場でかかとの上下 20回
- もも上げ 20回(速くなくてよい)
- その場で小さくジャンプ 10回
ポイントは「息が少し上がるまで」。寒い日は、息が上がらない程度では足りません。
② 動的ストレッチで可動域を戻す(40秒)
- 腕を大きく前回し・後ろ回し 各10回
- 足を前後に大きく振る 各10回
- 体を左右にねじる 10回
止めて伸ばす静的ストレッチではなく、動かしながら伸ばすのがここでの正解です。前述の医科学コラムが示す順番(有酸素 → 静的 → 動的 → 専門動作)の後半2つだけを、短く抜き出すイメージです。
③ 競技の最初の動きを1回だけやる(40秒)
これが抜けやすく、効果が大きい部分です。
| 競技 | 直前にやる1つの動き |
|---|---|
| サッカー | 全力で5歩ダッシュ+ボールを強く1本蹴る |
| 野球・ソフト | 素振り3回+肩を回して軽く10m送球 |
| バスケ | ディフェンスの構えで左右に3歩ずつ+シュート動作 |
| バレー | スパイクの助走動作を2回(打たなくてよい) |
| 陸上・水泳 | スタート姿勢から3歩(3かき)だけ全力 |
| 卓球・テニス | 素振り10回+フットワークを左右3往復 |
| 剣道・柔道 | 足さばき10歩+打ち(組み手)の形を3回 |
理由は「最初の1プレーを体にもう経験させておく」ためです。冷えた体でいきなり全力を出すのが危険なだけでなく、「今日の体がどのくらい動くか」を知らないまま試合に入るのが怖さにつながります。1回やっておけば、少なくとも未知ではなくなります。
親の声かけはこの1行だけ
「出番の5分前に、1回だけ本気の動き入れておこう」
内容を指示する必要はありません。タイミングだけを渡せば、子供は自分でやれます。
試合が始まってから戻す|「最初の1プレー」を決めておく
それでも、立ち上がりが完璧になることはありません。待機時間が読めない日もあります。
そこで、もう1枚用意しておきます。最初の1プレーを、試合前に決めておくことです。
冬の立ち上がりで子供が失敗するパターンは決まっています。冷えた体で、いきなり難しいことをやろうとする。これです。
| よくある立ち上がりのミス | 代わりに決めておく「最初の1プレー」 |
|---|---|
| ドリブルで仕掛けて取られる | 最初の1本は必ず味方にパス |
| いきなり強い球を投げて暴投 | 最初の送球は8割の力で確実に |
| 最初のシュートを外して固まる | 最初は自分で打たず、リバウンドに入る |
| 最初のレシーブで弾く | 最初の1本は低く構えて、前に落とすだけ |
| スタートで力みすぎる | 最初の20mは7割。そこから上げる |
共通するのは「最初の1本は、成功率の高いことをやる」です。成功が1つ入れば、体も気持ちも動き出します。逆に、冷えた状態で難しいことに失敗すると、立ち上がりの悪さが「自信の崩れ」に変わって、試合の中盤まで引きずります。
これは出発前の車の中や、会場に着いてすぐに決めておけます。親が決めるのではなく、子供に言わせるのがコツです。
〇 OK声かけ例
- 「今日の最初の1本、何にする?」
- 「最初は確実にいくやつ、ひとつ決めとこうか」
- 「立ち上がり寒いから、1本目は安全にいこう」
× NG声かけ例
- 「最初から飛ばしていけ」
- 「出た瞬間から全力で行け」
- 「最初に1本決めて流れを作れ」
「最初から全力」は、冬には成立しません。冷えた筋肉での急な全力は、ケガのリスクにもなります。ウォーミングアップとケガの関係は秋のウォーミングアップで子供のスポーツのケガを防ぐで扱っています。
ルーティンとして固めたい場合は試合前のルーティンの作り方|緊張を抑える「いつも通り」の習慣も合わせて読んでください。
親がやりがちな3つの逆走
ここは、良い親ほどやってしまうことです。
逆走① 「寒いからって言い訳するな」と気合いで押す
これが最も多い逆走です。
問題は、叱られた子がどうするかです。「寒いけど平気なふりをする」ようになります。上着を着ない、寒いと言わない、冷えていても動かない。原因が隠れるので、翌年も同じことが起きます。
さらに悪いのは、子供自身が「自分は本番に弱い」と結論づけてしまうことです。体温の問題を、性格の問題として記憶してしまう。これは数年単位で残ります。
逆走② 厚着をさせて終わりにする
防寒は必要ですが、厚着だけでは立ち上がりは直りません。
むしろ、厚着のままアップをして汗をかき、着替えずに待つと、冷え方は厚着しないより悪くなります。冬の装備で大事なのは「厚さ」ではなく「脱げること」と「着替えられること」です。
逆走③ アップの内容に口を出す
「もっと走ってきなさい」「ストレッチしてから行きなさい」。
アップの内容はチームの領域です。ここに親が入ると、コーチの指示と親の指示が食い違い、子供が板挟みになります。
親の持ち場は「アップのあとの空白20〜30分」です。ここはチームが管理していないことが多く、親が手伝っても誰とも衝突しません。しかも、立ち上がりに最も効く部分です。
線引きの目安
チームの領域:アップの内容・順番・時間、起用、戦術
家庭の領域:持ち物、着替えのタイミング、待機中の過ごし方、朝食、睡眠、帰ってからの振り返り
立ち上がりが悪かった日の振り返りと声かけ
試合が終わったあとが、翌週につながる部分です。
帰り道:原因の話をしない
車の中で「なんで最初動けなかったの?」と聞きたくなりますが、ここでは聞きません。疲れている直後に原因分析をすると、反省ではなく自己否定になります。
この場面で言うのは、事実の確認だけで十分です。
〇 OK声かけ例
- 「寒かったね。手、冷たくなってた?」
- 「途中から動けてたね。あれが本来の動きだよ」
- 「最初の5分だけだったね。あとは普通だった」
× NG声かけ例
- 「なんで最初から動かないの」
- 「アップちゃんとやったの?」
- 「気持ちが入ってないからだよ」
「手、冷たくなってた?」は、原因を体のほうに置いてあげる質問です。これだけで子供は「自分がダメだったから」から降りられます。
その夜か翌日:段取りの話に変える
落ち着いてから、1回だけ具体的に振り返ります。ポイントは「気持ち」を話題にしないことです。
- 「アップ終わったの、何時ごろだった?」(時間を思い出させる)
- 「試合始まったの、何時?」(空白の長さに気づかせる)
- 「その間、何してた?」(座っていた・立っていたを確認)
- 「次は、始まる5分前に1回だけ動いてみる?」(行動を1つ決める)
この4問だけです。子供が自分で「空白が30分あった」と気づけば、それ以上の説明はいりません。
次の試合で確認すること
変えたことが効いたかどうかは、「最初の5分」だけを見てください。勝敗ではありません。
- 最初の5分で、普段どおりの動きが出ていたか
- 最初の1プレーを決めたとおりにやれたか
- 直前2分の再アップを自分でやったか
この3つができていれば、その日は成功です。結果が出なくても、やることは合っています。
親が記録しておくと強い
スマホのメモに「日付/気温/アップ終了時刻/試合開始時刻/立ち上がりの良し悪し」だけを3〜4回残してみてください。空白が20分を超えた日に立ち上がりが悪い、という相関が自分の子で見えたら、それがいちばん強い根拠になります。子供に見せると納得が速いです。
今日からできる3つ
- 乾いたインナーを1枚、バッグに追加する。「アップ後に着替える専用」と決めて入れておく。これだけで汗冷えの大半が消えます。
- 次の試合で、アップ終了時刻と試合開始時刻をメモする。空白が何分あるかを知るだけで、打つ手が決まります。
- 「出番の5分前に、1回だけ本気の動きを入れる」を子供と約束する。内容は子供に決めさせる。親はタイミングだけ渡す。
3つとも、技術指導ではありません。親の領域だけで完結します。
OK声かけ例/NG声かけ例まとめ
会場に着いたとき
〇 OK声かけ例
- 「今日の試合、何時開始だって?」
- 「アップ終わったら、これ(インナー)着替えてね」
- 「上着、アップ終わったらすぐ羽織ろう」
× NG声かけ例
- 「寒いけど頑張れ」
- 「気合いで乗り切れ」
- 「厚着しとけば大丈夫」
アップが終わって待っているとき
〇 OK声かけ例
- 「汗拭いた?着替えちゃおう」
- 「座ってていいけど、足だけ動かしといて」
- 「あと5分だね」(時計だけ渡す)
× NG声かけ例
- 「ちゃんと集中してろ」
- 「じっとして落ち着きなさい」
- 「寒いなら動けばいいでしょ」(丸投げ)
出番の直前
〇 OK声かけ例
- 「1回だけ本気の動き、入れておこう」
- 「最初の1本、何にするか決まってる?」
- 「最初は7割でいこう。途中から上げればいい」
× NG声かけ例
- 「最初から飛ばせ」
- 「立ち上がりが大事だぞ」
- 「ここで決めないと終わりだぞ」
立ち上がりが悪かった試合のあと
〇 OK声かけ例
- 「寒かったね。手、冷たくなってた?」
- 「途中からはいつもの動きだったよ」
- 「次は始まる5分前に体起こしてみよう」
× NG声かけ例
- 「なんで最初から動けないの」
- 「気持ちの問題だよ」
- 「寒いのを言い訳にするな」
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よくある質問
冬の試合で立ち上がりが悪いのは、やる気の問題ではないのですか?
やる気ではなく、ほとんどが体温と時間の問題です。Mohrらの研究(Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports、2004年、14巻3号156〜162ページ)では、ウォームアップで39.4℃まで上がった筋温が、ハーフタイムに座って休むだけで37.4℃まで下がり、その後のスプリント能力が2.4%低下したと報告されています。低強度の再ウォームアップを行った条件では、どちらも低下しませんでした。冬の大会はアップから試合開始までの空白が20〜30分あることが普通なので、同じことが起きています。見分け方は簡単で、夏は立ち上がりが普通なのに冬だけ悪いなら、ほぼ体温の問題です。
アップから試合開始まで30分空きます。もう一度しっかりアップさせるべきですか?
長いアップをやり直す必要はありません。必要なのは「筋温を少し戻す」ことと「競技の最初の動きを1回通す」ことだけで、2分で足ります。具体的には、かかとの上下20回・もも上げ20回・小さいジャンプ10回で息を少し上げ、腕回しと足振りで可動域を戻し、最後に自分の競技の動きを1つだけ本気でやる(サッカーなら5歩ダッシュとシュート1本、野球なら素振り3回と軽い送球)。この順番で、出番の5分前にやるのが最も効きます。なお、体が冷えたまま長い静的ストレッチから始めるのは逆効果になりうるので避けてください。
寒い中での待機で、体育館と屋外のどちらが注意が必要ですか?
どちらも必要ですが、理由が違うので対策も変わります。屋外は風が熱を奪うので、風をさえぎることと汗を拭いて着替えることが優先です。体育館は暖房がないことが多く、冷たい床から熱が逃げるのが見落とされがちです。床に直接座らず、カバンやタオルの上に座るだけで変わります。足裏とふくらはぎが冷えやすいので、長い靴下や長ズボンで待たせてください。水泳はさらに厳しく、濡れた体で長く待つため、上がった瞬間に拭いて着ることと、肩を回し続けることが2本目以降のタイムを守ります。
立ち上がりが悪かった試合のあと、どう声をかければいいですか?
帰り道では原因を聞かないでください。疲れている直後の原因分析は、反省ではなく自己否定になります。その場では「寒かったね。手、冷たくなってた?」のように、原因を体のほうに置く質問にとどめます。落ち着いた夜か翌日に、気持ちではなく段取りの話として1回だけ振り返ります。「アップ終わったの何時だった?」「試合始まったの何時?」「その間なにしてた?」「次は5分前に1回動いてみる?」の4問だけで十分です。子供が自分で「空白が30分あった」と気づけば、それ以上の説明はいりません。
厚着をさせていれば、立ち上がりの問題は防げますか?
厚着だけでは防げません。むしろ厚着のままアップして汗をかき、着替えずに待つと、冷え方は厚着しない場合より悪くなることがあります。汗が肌に残ると、蒸発するときに体から熱を奪い続けるためです。冬の装備で大事なのは「厚さ」ではなく「脱げること」と「着替えられること」です。最優先の持ち物は、アップ後に着替える専用の乾いたインナー1枚。そのうえでベンチコート、タオル2枚、握るタイプのカイロ、温かい飲み物を用意すると、待機時間の冷えはかなり抑えられます。
うちの子は夏も冬も立ち上がりが悪いです。これも寒さの対策で直りますか?
季節に関係なく立ち上がりが悪い場合は、体温ではなく緊張や注意の向き方が主な原因である可能性が高いです。その場合は、この記事の時間割だけでは変わりません。ただし冬はそこに寒さが上乗せされるので、時間割と再アップをやる価値は十分あります。見分けるには手の甲を触ってみてください。指先が冷たく白っぽいなら寒さ、手が温かいのに震えているなら緊張が主役です。緊張が主役のときは、呼吸法や「最初の1プレーを決めておく」ほうが先に効きます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。


