結論から書きます。スポーツと塾を両立できるかどうかは、本人のやる気では決まりません。週あたりの移動時間と、確保できる睡眠時間で決まります。
だから最初にやることは、話し合いではなく計算です。紙に書き出すのは気持ちではなく、分です。
この記事では、週の時間を棚卸しする手順、固定枠から埋める時間割の作り方、どちらかを削る前に試せる3手、そして本人に決めさせる時の聞き方を、OK声かけ例とNG声かけ例つきで整理します。
結論:両立できるかは「気持ち」ではなく、週の分数で決まる
スポーツと塾の両立でつまずく家庭に共通しているのは、最初に話し合いから入ってしまうことです。「本気でやりたいの?」「どっちが大事なの?」と聞いてしまう。
でも、子どもがどれだけ本気で答えても、1日は24時間のままです。気持ちでは1分も増えません。
先に確認すべき事実は3つだけです。
- 小学生に必要な睡眠は9〜12時間が目安(厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」)。ここは削れない。
- 学校の時間と、家と現場を往復する移動時間も削れない。
- つまり両立の検討とは「増やす」話ではなく、どこを何分削るかの話である。
本人のやる気は前提条件であって、時間を生む変数ではありません。やる気が満タンでも、物理的に入らない週は入りません。逆に言えば、入る形に組み替えれば、やる気をすり減らさずに両方続けられます。
この記事の結論(先に3行)
1. 両立の可否は「週あたりの移動時間」と「睡眠が9時間確保できるか」で9割決まる。
2. 崩れる時、最初に削られるのは睡眠。睡眠が削れた時点で、両立はすでに失敗している。
3. やめる・続けるの二択に行く前に、「曜日をずらす」「コマを減らす」「移動を削る」の3手が残っている。
塾がやっかいなのは「宿題」とは別物だから|決定的に違う3つの点
学校の宿題とスポーツの両立なら、やる時間帯を家で決められます。くわしくはスポーツで宿題が終わらない小学生で扱っています。
ところが塾は、宿題とは性質がまったく違います。ここを同じものとして扱うと、時間割がいつまでも組めません。
違い① 時間が外部に固定されていて、家では動かせない
宿題は「風呂の前にやる」と家で決められます。塾は「火曜と金曜の17時20分から19時50分」と外から決まっています。
練習日と塾の曜日が重なった瞬間、その週は交渉できない予定どうしの衝突になります。どちらかが物理的に欠けます。
違い② 必ず「移動」がセットでついてくる
塾の拘束時間は授業時間ではありません。「家を出てから帰るまで」です。
授業150分の日でも、送迎やバスの往復が片道20分なら、実際に消える時間は約3時間10分です。親が見積もりを間違えるのは、ほぼこの移動分です。
違い③ 月単位・季節単位で勝手に膨らむ
塾には、通常授業のほかに季節講習・公開テスト・特訓・保護者会があります。スポーツ側にも、遠征・合宿・大会が入ります。
つまり両方とも、通常週では収まっていても、特定の月だけ破裂する構造になっています。春休み・夏休み・冬休み前後は特に重なります。
| 比べる点 | 学校の宿題 | 塾 |
|---|---|---|
| 時間帯 | 家で決められる | 外から固定される |
| 所要時間 | 20〜40分程度 | 授業90〜180分+移動 |
| 移動 | なし | 往復20〜60分が毎回 |
| 月による変動 | 小さい | 講習・テストで大きく膨らむ |
| 振替 | いつでも可 | 教室のルール次第 |
| やらない時の影響 | 翌日の提出 | 月謝が無駄・進度から遅れる |
両立が崩れる時、最初に削られるのは睡眠
両立が破綻する家庭を見ていくと、崩れ方にはほぼ決まった順番があります。
- 睡眠が削られる(就寝が22時台、23時台へ)
- 朝食が入らなくなる(食欲が落ちる、起きられない)
- 機嫌と集中が落ちる(塾でぼんやり、家でイライラ)
- 練習の質が落ちる(動きが重い、ミスが増える、ケガをする)
- 成績が落ちる(ここで初めて親が気づくことが多い)
- 「もう無理だからどっちかやめなさい」になる
注目してほしいのは、親が異変に気づくのが⑤の段階だということです。実際の崩壊は①の時点で始まっています。
小学生の睡眠は9〜12時間が目安
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、こどもの睡眠について「小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間を参考に睡眠時間を確保する」と示されています。
朝6時半に起きる子なら、9時間を確保する就寝時刻は21時半です。10時間なら20時半です。くわしい逆算の早見表はスポーツする小学生の睡眠時間にあります。
睡眠を削ると、最初に壊れるのは体
スポーツをしている子にとって、睡眠不足は「眠い」だけでは終わりません。
Milewski らが2014年に Journal of Pediatric Orthopaedics(34巻2号129〜133ページ)で報告した研究では、中高生アスリート112名(男子54名・女子58名、平均15歳)を調べたところ、1晩の平均睡眠時間が8時間未満の選手は、8時間を超える選手に比べてケガをしていた割合が約1.7倍高かったと示されています。
つまり、睡眠を削って両立したつもりが、ケガで両方止まるという結末になりかねません。これが「睡眠は削ってはいけない」の実務的な理由です。
崩れかけの7つのサイン
- 就寝時刻が、2週間前より30分以上遅くなっている
- 朝、自分で起きられない日が週2日以上ある
- 朝食を残す、または食べたがらない
- 塾の日の夕方に「行きたくない」と言い始めた
- 練習で軽いケガ・ひねり・張りの訴えが増えた
- 車の中で寝落ちするようになった
- 好きだったほうの話題を、自分から出さなくなった
2週間続いたら、時間割を組み直す合図
上の7つのうち2つ以上が2週間続いているなら、気合いや声かけで戻す段階ではありません。この記事の後半にある「棚卸し」と「5ステップ」で、週の形そのものを組み替えてください。
まず5分でやる|週の時間の棚卸し
ここからが具体的な手順です。必要なのは紙1枚とペンだけです。話し合いの前に、親がひとりで5分で終わらせてください。
手順1|動かせない枠から書く
1週間の表を作り、先に「絶対に動かせないもの」を埋めます。学校・睡眠・食事・入浴の4つです。
ここで多くの親がやってしまうのが、睡眠を最後に残すことです。順番を逆にしてください。睡眠は最初に置く固定枠です。
手順2|練習と塾は「移動込み」で書く
ここが棚卸しの肝です。練習2時間を「2時間」と書いてはいけません。
- 準備・着替え・水筒の用意:15分
- 行きの移動:20分
- 練習:120分
- 帰りの移動:20分
- 帰宅後の片づけ・洗濯物出し・シャワー:25分
合計すると200分(3時間20分)です。練習2時間の日は、家の時間が3時間20分消えると考えてください。これを週3回やれば10時間です。
手順3|残りの可処分時間を見る
固定枠を全部引いたあとに残る時間が、「勉強・塾の宿題・自由時間」に使える全部です。この数字を見ると、議論が感情から算数に変わります。
| 曜日 | 予定 | 移動込みの拘束時間 | 就寝可能時刻 |
|---|---|---|---|
| 月 | 塾(17:20〜19:50) | 3時間10分 | 21:30 |
| 火 | チーム練習(17:00〜19:00) | 3時間20分 | 21:30 |
| 水 | なし | 0分 | 21:00 |
| 木 | チーム練習(17:00〜19:00) | 3時間20分 | 21:30 |
| 金 | 塾(17:20〜19:50) | 3時間10分 | 21:30 |
| 土 | 試合/練習(午前〜午後) | 6時間 | 21:00 |
| 日 | 塾のテストまたはオフ | 0〜3時間 | 21:00 |
この表を作った時点で、たいていの家庭はこう気づきます。「水曜しか空いていない」。それが現実です。だからこそ、水曜を何に使うかが両立の生命線になります。
ついでにお金も棚卸ししておく
時間と同じく有限なのが家計です。文部科学省「令和5年度 子供の学習費調査」(令和6年12月25日公表)によると、公立小学校に通う子どもの「学校外活動費」は年間216,107円でした。塾・習い事・スポーツクラブなどを合わせた1年分の平均です。
スポーツのチーム費・遠征費・用具代に塾の月謝と講習費が重なると、この平均を大きく超える家庭も珍しくありません。時間の棚卸しと同時に金額も並べておくと、「減らす」判断の時に話が早く進みます。

時間割の作り方|固定枠から埋める5ステップ
棚卸しができたら、組み直します。順番を守るだけで、同じ予定でも1時間近く変わります。
ステップ1|起床時刻から逆算して、就寝時刻を先に置く
朝6時半起床・睡眠9時間なら、就寝21時半。この1行を表のいちばん上に書いて、赤で囲んでください。
以降のすべての予定は、この線を越えないことが条件になります。越える予定が出てきたら、その予定のほうを削ります。順番を間違えないでください。
ステップ2|移動を「予定」として色をつける
移動は空白ではありません。予定です。往復40分の日は、40分のブロックとして色を塗ってください。
色を塗ると、週の移動時間の合計が一目で見えます。週5時間を超えている家庭は、移動を削るだけで時間割が成立することが多いです。
ステップ3|塾と練習を、動かせない順に置く
置く順番は「試合・大会」→「塾の授業」→「チーム練習」→「自主練」です。
自主練を最後に置くのは、軽視しているからではありません。唯一、量も時間帯も家で調整できる枠だからです。10分でも成立するやり方は小学生の自主練メニューの決め方にまとめています。
ステップ4|勉強は「余った時間」に置かない。15分の固定枠を先に差し込む
両立が崩れる家庭の時間割は、勉強がいつも最後の残り物の位置にあります。残り物の枠は、疲れた日に真っ先に消えます。
そうではなく、練習から帰る前の時間や、朝に15分の固定枠を置いてください。15分は短すぎると思うかもしれませんが、毎日動く15分は、週1回の90分より確実に積み上がります。
- 練習がある日:学校から帰って出発するまでの15分(疲れる前)
- 塾がある日:塾から帰ったら勉強しない。やるのは翌朝15分
- 何もない日:夕食前に30〜45分(ここがいちばん伸びる枠)
ステップ5|週に1つ、空白の枠を残す
全部の枠を埋めた時間割は、1回の体調不良で崩れます。予備日が1つあるだけで、崩れずに戻せます。
空白は「何もしない日」ではなく「はみ出したものを拾う日」です。スポーツで「遊ぶ時間がない」と言う子供への向き合い方でも書いたとおり、予定が詰まりきった週が続くと、子どもは理由を言えないまま失速します。
| 時間 | 練習がある日 | 塾がある日 | どちらもない日 |
|---|---|---|---|
| 15:30 | 帰宅・補食 | 帰宅・補食 | 帰宅・補食 |
| 15:45 | 勉強15分(固定枠) | 出発準備 | 宿題 |
| 16:10 | 着替え・出発 | 移動 | 自由時間 |
| 17:00 | 練習 | 塾(〜19:50) | 勉強30〜45分 |
| 19:00 | 帰宅・夕食 | 移動 | 夕食 |
| 20:00 | 入浴・翌日準備 | 帰宅・夕食 | 入浴・自主練10分 |
| 20:45 | 自由時間 | 入浴(勉強しない) | 自由時間 |
| 21:30 | 就寝 | 就寝 | 就寝(21:00目標) |
入浴を就寝の前に置いているのには理由があります。湯温とタイミングで寝つきが変わるためです。くわしくはスポーツする子供の入浴と疲労回復を参照してください。
移動時間と食事をどう挟むか|車内と塾前の補食
両立のいちばん苦しい時間帯は、学校から塾・練習に直行する夕方です。ここで空腹のまま2〜3時間を過ごすと、集中力も練習の質も落ちます。
塾・練習の前に入れる補食
夕食までの間に入れるのは、消化が早く、手が汚れず、においが出ないものです。
| 場面 | 向いているもの | 避けたいもの |
|---|---|---|
| 塾へ直行する日 | おにぎり小1個、バナナ、カステラ、牛乳 | 揚げ物、ラーメン、炭酸 |
| 練習へ直行する日 | おにぎり、エネルギーゼリー、果汁100%ジュース | 食べ放題のお菓子、冷たいアイス |
| 練習→塾のはしご | 小さめのおにぎり+果物。夕食は帰宅後に軽く | 塾前の大盛り夕食(眠くなる) |
| 帰宅が20時を超える日 | 帰ったら温かい汁物から。主食は控えめ | 寝る直前の重い食事 |
「練習→塾のはしご」がある日は、夕食を2回に割るのが現実的です。出発前に軽く、帰宅後に残りを食べさせます。1回で詰め込むと、どちらかで眠くなります。
車内の20分をどう使うか
送迎の車内は、親子が逃げ場なく向き合う時間です。ここの使い方で、その日1日の評価が決まってしまいます。
- やっていいこと:音楽をかける、何も話さない、本人が話し出したら聞く、翌日の予定だけ共有する
- やらないこと:成績の話、塾のテストの点数、練習のダメ出し、「疲れてるなら塾どうする?」という揺さぶり
とくに塾へ向かう車内で成績の話をしないこと。これから2時間半集中する直前に、不安を足す必要はありません。話すなら帰りの車内か、翌日の明るい時間です。
どちらかを削る前に試す3手
「もう無理だから、どっちかやめよう」。この結論に行く前に、まだ3つ手が残っています。3つとも試して駄目なら、その時に減らす判断をすればいい。順番が大事です。
手1|曜日と時間帯をずらす
多くの親が、塾の曜日は変えられないものだと思い込んでいます。実際には、同じ授業が別の曜日・別の時間帯にも設定されている教室は珍しくありません。振替制度を持つ教室もあります。
相談すること自体は失礼ではありません。教室側も、途中でやめられるより曜日を変えて続けてもらうほうがいいからです。
塾への相談文例(メール・連絡帳)
いつもお世話になっております。○年○組の○○の母です。
4月から所属チームの練習が火曜・木曜の17時からに変わり、現在の火曜の授業と重なってしまいました。本人は塾を続けたいと言っております。同じ内容の授業で、水曜または金曜に振り替えられるクラスはございますでしょうか。
難しい場合は、現在のクラスのまま、欠席回のフォロー方法をご相談させていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
ポイントは「続けたいから相談している」と最初に書くことです。やめる前提の相談だと受け取られると、提案が出てきにくくなります。
チーム側に相談する場合も同じです。伝え方の原則はコーチに嫌われる親の特徴7つで整理しています。
手2|「やめる」の前に「コマを減らす」
週3コマを週2コマに。週2回の練習参加を週1回+自主練に。ゼロか100かの間に、いくつも段階があります。
減らす時の原則は2つです。
- 減らすのは「量」であって「接点」ではない。週1でも通っていれば、戻る時の心理的ハードルが段違いに低い。
- 減らす対象は、本人の伸びしろが小さいほうから。好きなほう・伸びているほうを残す。
練習の量をどう判断するかは小学生の練習量はどれくらい必要?に目安があります。また、そもそも習い事を複数掛け持ちしている場合は子供のスポーツ掛け持ちで絞る時期の考え方を扱っています。
手3|移動を削る
いちばん効くのに、いちばん見落とされるのがこれです。移動は学びも体力もゼロのまま時間だけ消えます。
- 教室を変える:同じ塾でも、家や学校に近い校舎に移れないか聞く
- オンライン受講・映像授業に切り替える:週2回のうち1回だけでも移動がゼロになる
- 自習室を使う:練習前の空き時間を自習室で過ごすと、帰宅後の勉強枠が消せる
- 送迎を分担する:チームメイトの家庭と交互に出す。週1回減るだけで月4時間浮く
週の移動が5時間を超えていた家庭が、教室変更とオンライン1回で週2時間削れた、というのはよくある話です。2時間あれば、就寝時刻を30分早めても、まだ余ります。
それでも足りない時|「やめる」ではなく「期間限定で減らす」
3手を試しても入らない週はあります。小6の受験期、全国大会の直前、大きな大会が続くシーズン。この時期は、どちらかを一時的に減らすのが正解です。
「やめる」と「休む」はまったく違う
やめると決めた瞬間、持ち物も、仲間との関係も、本人の自己イメージも切り替わります。小学生にとって、これは思っているより大きな出来事です。
一方、休会・コマ減らしなら、戻る場所が残ります。費用も抑えられて、本人の「見捨てていない」感覚も保てます。
減らすと決めた時に、セットで決める4項目
- 期間:「受験が終わるまで」ではなく「2月末まで」と日付で決める
- 戻る条件:日付が来たら自動で戻るのか、条件つきか
- その間にやる最低限:週1回15分でも触れ続ける内容を1つ決める
- 誰にどう伝えるか:コーチ、チームメイト、塾。伝える順番と言葉を親子で決める
チームへの相談文例(休会・参加回数を減らす時)
いつもご指導ありがとうございます。○○の保護者です。
2月の受験まで、平日の練習参加を週1回(土曜のみ)に減らさせていただきたくご相談です。本人はやめるつもりはなく、3月から元の参加に戻る前提で考えております。
練習に出られない間も、家で続けられることがあればご教示いただけますと幸いです。チームにご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
この文面で重要なのは「いつ戻るか」を先に書いていることです。期限のない休会は、本人の中でも「やめた」に変わっていきます。
戻れなくなるのはこういう時
- 休む期間に、家で一度も競技に触れなかった
- 「どうせ戻れない」と親が先に言ってしまった
- 休む理由を本人が納得しておらず、親が決めた
- 戻る日を決めていなかった
長期休みを使って立て直す方法は冬休みの練習どうする?に、休ませる判断の軸はお盆に練習を休ませていい?に詳しく書いています。
本人に決めさせる時の聞き方
最後は本人が決めます。ただし、聞き方を間違えると、本人の本音は出てきません。
聞いてはいけない質問
「スポーツと塾、どっちが大事なの?」
この質問には答えがありません。どちらを答えても、もう片方を切り捨てた宣言になるからです。子どもは黙るか、親が望んでいそうなほうを答えます。どちらも本音ではありません。
代わりに使える3つの質問
- 「今の1週間で、いちばんしんどいのは何曜日?」(評価ではなく事実を聞く。答えは必ず出る)
- 「もし1つだけ30分増やせるなら、何に使いたい?」(優先順位が、減らす話をせずに分かる)
- 「この形を3月まで続けられそう? 無理そうなら、どこを変えたい?」(期限を切って、変更点だけを聞く)
3つとも、「やめる・続ける」を聞いていません。どこをどう変えるかだけを聞いています。この聞き方だと、子どもは自分の口で具体案を出します。
| 親が聞きたいこと | NGな聞き方 | OKな聞き方 |
|---|---|---|
| 本気かどうか | 「本気でやる気あるの?」 | 「今の形、3月まで続けられそう?」 |
| どちらを優先するか | 「どっちが大事なの?」 | 「30分増やせるなら何に使う?」 |
| つらいかどうか | 「つらいならやめていいんだよ」 | 「いちばんしんどいのは何曜日?」 |
| 塾を続けるか | 「月謝もったいないよ?」 | 「塾の何が役に立ってる? 何がきつい?」 |
| 練習を減らすか | 「レギュラーになれないのに続ける?」 | 「週3を週2にしたら、何が変わりそう?」 |
決めたら紙に書いて貼る
口で決めたことは、3日で記憶が食い違います。A4の紙に「いつまで・何を・週何回」を書いて、冷蔵庫に貼ってください。
紙がある家庭は、うまくいかなかった時に「約束を破った」ではなく「紙を直そう」という会話になります。これが大きな差になります。
親がやりがちな3つの逆走
逆走1|「やる気があればできるはず」と気持ちの問題にする
時間が足りない問題を、精神論に変換してしまう逆走です。
この言い方をされた子は、できない自分を責めます。本当は時間割の設計の問題なのに、人格の問題にされるからです。やる気はあるのに時間がない、という状態が一番多いことを忘れないでください。
逆走2|親が勝手に決めて、事後報告する
「塾、火曜と金曜にしたから」。よくある場面ですが、これをやると、本人は自分の生活の当事者ではなくなります。
決定権を渡す必要はありません。選択肢を2つ出して選ばせるだけで十分です。「火金コースと水土コース、どっちがいい?」。これだけで、続き方がまったく変わります。指示待ちの子供をスポーツで変えるでも同じ原則を扱っています。
逆走3|成績を人質にして、練習を取り上げる
「次のテストが悪かったら、練習は休ませるからね」。この一言は、親が思う以上に効果がありません。
理由は2つです。1つは、罰として扱われた瞬間に、本人の中でスポーツが「勉強の邪魔をするもの」に変わること。もう1つは、運動を減らしても成績が上がるとはかぎらないことです。
Donnelly らが2016年に Medicine & Science in Sports & Exercise(48巻6号1197〜1222ページ)で発表したアメリカスポーツ医学会のポジションスタンドでは、子どもの身体活動・体力と認知機能・学業成績の関係を体系的にレビューしています。そこでは、身体活動や体育の時間が学業成績に与える影響は「中立的」とする研究が多く、身体活動を増やすことが認知や学業に悪影響を与える証拠はないと整理されています(学業成績についてのエビデンスは一貫性が低く、今後の研究課題とされています)。
つまり「練習の時間を勉強に回せば成績が上がる」という前提そのものが、研究上は裏づけが弱いということです。取り上げるより、就寝時刻を30分早めるほうが、現実的な効果が見込めます。
OK声かけ例/NG声かけ例まとめ
場面ごとに、そのまま使える言い方を並べます。迷ったら、「どっちか選べ」ではなく「どこを変える?」に寄せてください。
| 場面 | NG声かけ例 | OK声かけ例 |
|---|---|---|
| 塾に通い始めるか考えている | 「サッカー続けるなら塾は無理だよ」 | 「月曜と金曜なら練習とかぶらないみたい。見学だけ行ってみる?」 |
| 練習と塾が重なった | 「どっちか選びなさい」 | 「どっちも続けたいなら、削れるのは移動か睡眠だけ。一緒に見てみよう」 |
| 塾から帰って疲れきっている | 「宿題は? 早くやりなさい」 | 「今日はもう寝よう。残りは明日の朝15分でいい」 |
| 練習後に寝落ちした | 「また寝ちゃって、計画が台無しじゃない」 | 「寝たってことは、今の週がきついってことだ。明日、曜日の相談しよう」 |
| 塾のテストが悪かった | 「練習ばっかりしてるからでしょ」 | 「点より、どこが分からなかったかだけ教えて。そこだけ潰そう」 |
| 試合で結果が出なかった | 「塾で疲れてるからだよ」 | 「今日は動きが重かったね。何時に寝てた?」 |
| 「どっちもやめたくない」と言われた | 「わがまま言わないで」 | 「わかった。じゃあ、やめない前提で組み直そう。どこなら減らせる?」 |
| 減らすと決めた | 「仕方ないよね、諦めよう」 | 「2月までは週1。3月から元に戻すって紙に書いておこう」 |
| 減らしたあと落ち込んでいる | 「自分で決めたことでしょ」 | 「週1でも行ってるのはすごいよ。3月にちゃんと戻れるようにしてる」 |
NG例に共通しているのは、どちらかを悪者にしていることです。塾のせいで試合が悪い、練習のせいで成績が悪い。この構図を作ると、子どもは好きなほうを隠すようになります。
今日からできる3つの行動
- 紙1枚に1週間の表を書いて、睡眠を最初に塗る。起床時刻から9時間を引いた就寝時刻を赤で引き、その線を越える予定に印をつける。5分で終わります。
- 練習と塾を「移動込み」で書き直す。準備・往復・帰宅後の片づけまで足した分数を書く。ここで初めて、本当の拘束時間が見えます。
- 今夜、子どもに1問だけ聞く。「今の1週間で、いちばんしんどいのは何曜日?」。やめる・続けるの話は一切せず、その日だけを聞いてください。
まとめ
スポーツと塾の両立は、根性の問題ではありません。週の分数の問題です。
- 両立の可否は「週あたりの移動時間」と「睡眠が確保できるか」でほぼ決まる
- 崩れる時は睡眠から削られる。親が気づくのは成績が落ちてからで、その時にはもう遅い
- 塾は宿題と違い、時間が固定され、移動がつき、季節ごとに膨らむ
- 時間割は「睡眠→移動→塾・練習→勉強15分→空白」の順に埋める
- やめる前に「曜日をずらす」「コマを減らす」「移動を削る」の3手がある
- 減らす時は、期間・戻る条件・最低限・伝え方の4つをセットで決める
- 本人には「どっちが大事か」ではなく「どこを変えたいか」を聞く
どちらも続けたいと言う子は、欲張りなのではありません。どちらも自分の一部だと思っているだけです。その前提に立って、削るのは気持ちではなく分数だと決めてしまえば、話は驚くほど前に進みます。
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- スポーツする小学生の睡眠時間|9時間の根拠と練習が遅い日の逆算術|就寝時刻の逆算早見表。この記事の「ステップ1」の詳細版です。
よくある質問(FAQ)
小学生でスポーツと塾の両立は、週に何回までなら可能ですか?
回数より、移動を含めた拘束時間の合計で考えてください。目安として、平日の学校外の拘束が週15時間を超え、かつ就寝が21時半を過ぎる日が週3日以上ある場合は、どこかで崩れます。週3練習+週2通塾は、移動が片道20分以内なら成立しますが、片道40分になると同じ回数でも週3時間以上増えて成立しにくくなります。まずは回数ではなく、1週間の分数を書き出してください。
塾の日に練習を休ませると、チームで居場所がなくなりませんか?
休む回数そのものより、伝え方と、休まない日の姿勢で決まります。あらかじめ「火曜は塾なので欠席します」と曜日を固定して伝えておけば、コーチは起用の計画が立てられるので、突発の欠席よりはるかに受け入れられます。逆にいちばん印象が悪いのは、当日の朝の連絡が続くことです。また、出られる日に誰より早く来て準備をする、といった行動のほうが、出席率より見られています。心配なら、シーズンの最初に一度だけ「この曜日は塾で出られません。それ以外は全部出ます」と伝えておいてください。
塾から帰ったあとに宿題をやらせるべきですか?
21時を過ぎているなら、やらせないほうが結果的に早く終わります。疲れた状態の30分は、翌朝の15分に負けます。帰宅後は風呂と就寝だけにして、残りは翌朝に回す形を基本にしてください。どうしても当日中に必要な提出物がある場合は、塾へ行く前の時間か、塾の自習室を使うのが現実的です。帰宅後に机に向かわせることを習慣にすると、就寝時刻が毎週少しずつ後ろにずれていき、2か月後には取り返せなくなります。
成績が下がってきました。スポーツを減らすべきでしょうか?
減らす前に、睡眠時間を先に確認してください。就寝が21時半より遅い日が続いているなら、原因は練習量ではなく睡眠不足である可能性が高いです。アメリカスポーツ医学会のポジションスタンド(Donnelly ほか, 2016)では、身体活動を増やすことが学業成績に悪影響を与える証拠はないと整理されています。つまり「練習を減らせば成績が上がる」という図式は、研究上は裏づけが弱いということです。最初に手をつけるのは就寝時刻を30分早めること、次に移動を削ること。練習量を減らすのは3番目です。
子供が「どっちもやめたくない」と言って譲りません。どうすればいいですか?
その言葉は、わがままではなく「両方とも自分の一部だ」という表明です。まずは「わかった、やめない前提で組み直そう」と受け止めてください。そのうえで、やめる・続けるではなく「どこなら減らせるか」だけを一緒に探します。練習の回数、塾のコマ数、移動時間、自主練の長さ。この4つのどれかには必ず削れる場所があります。それでも1週間に入らないなら、期間を区切って片方を減らす提案をしてください。「やめる」ではなく「2月まで週1にする」という言い方なら、受け入れられることが多いです。
季節講習や合宿が重なる月は、どう乗り切ればいいですか?
その月だけは、通常週の時間割を捨てて別に作ってください。やることは3つです。①カレンダーに講習日・合宿日・大会日を先に書き込み、重なっている日を特定する。②重なった日はどちらを優先するかを1か月前に決めて、両方に連絡しておく。③講習期間中は家の勉強枠をゼロにする(講習がその枠の代わりです)。直前に決めると、どちらにも迷惑がかかり、本人も当日まで落ち着きません。夏と冬の講習日程は早めに出るので、出たらすぐチームの予定と並べてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。



