結論から言います。スポーツをする小学生に必要な睡眠時間は「9時間以上」。まずは9時間を最低ラインにしてください。そして時間の決め方は「何時に寝るか」ではなく、「何時に起きるか」からの逆算です。朝6時30分起床なら、21時30分就寝で9時間。ここが動かせない土台になります。
とはいえ、全国大会を目指す家庭の現実はもっと厳しいはずです。「練習が終わって帰宅は21時。そこから風呂と夕食、宿題をやったら23時」——そんな日が週に何日もある。理想論を並べられても困りますよね。
この記事では、必要な睡眠時間の根拠を示したうえで、帰宅が遅い日でも睡眠を守る現実的な時間設計まで踏み込みます。削るべきは睡眠ではありません。削れるのは、その手前にある「意外な15分」です。

小学生スポーツ選手の睡眠時間は9〜11時間|公的な根拠と学年別の目安
まず、数字の出どころをはっきりさせます。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、小学生は9〜12時間の睡眠時間を確保することが推奨されています(米国睡眠医学会の指針を引用)。中学・高校生は8〜10時間です。
また米国国立睡眠財団が示す年代別の推奨睡眠時間でも、就学児(6〜13歳)は9〜11時間とされています。
つまり、公的なラインは「9時間が下限」。ここに毎日ハードな練習が乗るジュニアアスリートであれば、9時間はスタート地点であって、ゴールではないと考えてください。
起床時刻から逆算する就寝目標時刻【早見表】
「9時間寝かせる」と言われてもピンときません。起床時刻から逆算した表にすると一気に具体的になります。
| 起床時刻 | 9時間の就寝目標 | 10時間の就寝目標 |
|---|---|---|
| 6:00 | 21:00 | 20:00 |
| 6:30 | 21:30 | 20:30 |
| 7:00 | 22:00 | 21:00 |
| 7:30 | 22:30 | 21:30 |
ここでよくある誤解が1つあります。「布団に入った時刻=睡眠開始」ではありません。寝つくまでに10〜20分かかるのが普通です。21時30分に眠らせたいなら、21時15分には布団に入っている必要があります。
低学年ほど長く必要。学年別のざっくり目安
- 小1〜小2:10〜11時間(20時台就寝が理想)
- 小3〜小4:9.5〜10.5時間(21時前後)
- 小5〜小6:9〜10時間(21時台)
年齢が上がるほど必要時間は短くなりますが、練習量は逆に増えます。だから高学年こそ睡眠が削られやすく、影響も出やすいのです。
睡眠不足がアスリートの子に与える影響|ケガのリスクは1.7倍
「多少寝不足でも、若いから大丈夫」——これがいちばん危ない思い込みです。
①ケガのリスクが上がる
公益財団法人スポーツ安全協会のコラム「ジュニアのための睡眠」によると、睡眠不足による注意散漫や判断力の低下は、スポーツ活動中の予期せぬケガのリスクを高めることが示唆されています(Milewski et al., 2014ほか)。この研究はよく「平均睡眠が8時間未満の選手は、8時間以上の選手に比べてケガのリスクが約1.7倍」という形で紹介されます。
1本の練習を増やすより、1時間早く寝るほうがケガを防ぐ。これは根性論ではなく、データが示していることです。
②動きの精度と反応速度が落ちる
同コラムでは、睡眠不足が反応時間・精度・持久力の低下と関連することも指摘されています。「練習ではできるのに試合で崩れる」子の背景に、慢性的な睡眠不足が隠れているケースは少なくありません。
③技術が「定着」しない
ここが親にいちばん知ってほしいポイントです。睡眠中、脳は日中の情報を整理して記憶として定着させます。運動技能も同じで、その日に練習したフォームは、眠っている間に体に染み込みます。
つまり、睡眠を削って練習を増やすのは、覚えた端から消していく作業に近い。練習の効果を回収する時間が睡眠なのです。
④風邪をひきやすく、気持ちも不安定になる
睡眠不足は免疫機能を下げ、感染症のリスクを上げます。さらに、抑うつ症状・不安・イライラといった気分の悪化とも関連が報告されています。「最近やたら反抗的」「ささいなことで泣く」——性格の問題に見えて、実は睡眠の問題ということがあります。
身長と成長ホルモン|「寝る子は育つ」はどこまで本当か
成長ホルモンは骨や筋肉の成長に重要な役割を果たし、その分泌のピークは主に夜間の深い睡眠中に迎えます。睡眠不足や睡眠の質の低下は、この分泌量を減らす可能性が示唆されています(スポーツ安全協会コラム/Van Cauter et al., 2008ほか)。
ただし、ここで1つ訂正しておきたい俗説があります。
「22時〜2時がゴールデンタイム」という説は、今は正確ではないとされています。成長ホルモンは「特定の時刻」ではなく、眠り始めの深いノンレム睡眠のときに最も多く出ると考えられています。
だから重要なのは時計の針ではなく、①十分な総睡眠時間 ②寝入りばなを深く眠れる環境の2つ。23時就寝でも深く眠れれば分泌されますが、そもそも総時間が足りなければ回数が減ります。身長を意識するなら、時刻より「時間の長さと質」を優先してください。

練習で帰りが遅い日の現実的な時間設計|21時帰宅からの逆算テンプレ
ここからが本題です。21時帰宅で9時間睡眠は可能なのか。結論、「毎日は無理。でも週の合計なら守れる」が現実的な答えです。
21時帰宅日の逆算タイムテーブル(例)
| 時刻 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 21:00 | 帰宅・すぐ入浴 | 先に風呂。食事より風呂が先 |
| 21:20 | 夕食(軽め) | 重い揚げ物は避ける |
| 21:45 | 翌日の準備・軽い振り返り | 3分でOK |
| 22:00 | 消灯 | 宿題は持ち越す判断も |
ポイントは3つあります。
①「風呂が先、食事があと」に変える
多くの家庭は「食事→風呂」の順です。しかしこれだと、風呂で体温が上がったまま布団に入ることになり、寝つきが悪くなります。帰宅直後に入浴すれば、食事中に体温が下がり、自然な眠気が来ます。汗も先に流せて一石二鳥です。
②宿題は「朝に回す」判断を親が持つ
眠い頭で1時間かかる宿題は、朝の頭なら20分で終わることがあります。22時を過ぎたら中断して寝かせ、翌朝に回す。この判断は子どもには下せません。親が「もう寝よう、明日の朝やろう」と言い切ってあげてください。
③帰りの車で寝かせない
スポーツ安全協会も指摘していますが、練習帰りの移動時間に眠ってしまうと、夜の入眠が遅れます。20分の車内睡眠が、就寝を1時間遅らせることもあります。会話・音楽・窓を開けるなどで、家に着くまでは起こしておきましょう。
1週間単位で管理する
毎日9時間は現実的ではありません。「練習が遅い火・木は8時間半、それ以外の日は9時間半」のように、1週間の合計で63時間(9時間×7日)を目標にしてください。1日単位で見ると「今日もできなかった」で終わりますが、週単位なら取り返せます。
睡眠の質を上げる家庭環境|光・風呂・スマホの3点だけ整える
時間を伸ばせないなら、質を上げるしかありません。全部やろうとせず、次の3つに絞ってください。
光:寝る1時間前から照明を落とす
リビングの明るい照明は、脳に「まだ昼だ」と伝えてしまいます。就寝1時間前になったら間接照明や暖色に切り替える。逆に朝は起きたらすぐカーテンを開けて朝日を浴びる。体内時計は朝の光でリセットされます。
風呂:就寝の90分前に上がるのが理想
入浴で上がった深部体温が下がるタイミングで眠気が来ます。就寝の90分前に湯船から上がるのが理想。時間がない日は、ぬるめのシャワーで済ませたほうが寝つきは良くなります。
スマホ・ゲーム:寝る1時間前から手放す
デジタル機器は寝る1時間前から避けるのが基本です。ただ、いきなり取り上げると反発を招きます。「充電器はリビングに置く」というルールにして、機器そのものを寝室から出すのが揉めにくい方法です。
寝室環境の目安は、室温は夏25℃前後・冬18℃前後、湿度50〜60%。暗く静かに保つことも大切です。
睡眠時間を伸ばす声かけ|OK例とNG例
「早く寝なさい」は、いちばん効かない言葉です。子どもは寝たくないのではなく、やることが終わっていないから寝られないのです。
NG声かけ例と、その言い換え
- NG:「早く寝なさい!」
→ OK:「あと10分でお風呂、そのあと布団ね。何から片づける?」(次の行動を具体化する) - NG:「そんなに寝てないから背が伸びないんだよ」
→ OK:「寝てる間に体がつくられるらしいよ。今日の練習、寝て染み込ませよう」(不安ではなく得を語る) - NG:「宿題終わるまで寝ちゃダメ」
→ OK:「今日はここまで。残りは明日の朝、頭がスッキリしてるときにやろう」(親が撤退を決める) - NG:「まだ起きてるの?だらしない」
→ OK:「眠れない感じ?体だけ横にしておくだけでも休まるよ」(人格でなく状態に触れる) - NG:「明日試合なんだから絶対寝なさい」
→ OK:「眠れなくても大丈夫。目をつぶってるだけで体は回復してるから」(プレッシャーを外す) - NG:「休みの日くらい好きなだけ寝てなさい」
→ OK:「休みの日も、いつもの1時間後までには起きよう。夜が楽になるよ」(リズムを守る)
子どもが自分で守りたくなる伝え方
いちばん効くのは、睡眠を「制限」ではなく「トレーニングの一部」として渡すことです。
「寝るのも練習のうち。プロの選手は寝る時間を最優先にしてるらしいよ」——この一言で、寝ることが我慢から努力に変わります。強い選手ほど寝ている、という事実は子どもの心に届きます。
今日からできる3つの行動
- 起床時刻から逆算して、就寝目標時刻を紙に書いて貼る。「9時間寝る」ではなく「21時30分に電気を消す」と時刻で決めます。
- 今夜から「風呂が先、食事があと」に入れ替える。順番を変えるだけなので、今日すぐできます。
- 就寝時刻を1週間に15分ずつ早める。いきなり1時間は続きません。15分なら夕食も風呂もほぼ今のままでいけます。
3つ全部でなくて構いません。まず1つ、今夜から。
睡眠不足のサインチェックリストと、受診を考える目安
子どもは「眠い」と言葉にしません。代わりに行動に出ます。
チェックリスト
- 朝、自力で起きられない日が週3日以上ある
- 休日に平日より2時間以上長く寝ている
- 車や電車ですぐ寝てしまう
- 練習の後半になると集中が切れる、ミスが増える
- イライラ・涙もろさが以前より目立つ
- 朝食が食べられない
- 軽い捻挫や打撲が続いている
3つ以上当てはまるなら、まずは就寝時刻を30分前倒しして2週間試してください。多くの場合、これで表情が変わります。
受診を考えたほうがいい場合
次のような様子があるときは、生活改善だけで抱え込まず、小児科に相談してください。
- 10時間近く寝ているのに、日中の強い眠気が続く
- 大きないびき、睡眠中に呼吸が止まっているように見える
- 寝つけない・夜中に何度も目が覚める状態が1ヶ月以上続く
- 朝、起きられずに登校できない日が増えている
特にいびきと無呼吸は、扁桃肥大などが原因のこともあり、治療で改善する可能性があります。「うちの子は寝相が悪いだけ」で片づけないでください。
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まとめ|睡眠は削るものではなく、逆算の起点にするもの
スポーツをする小学生の睡眠時間は、9時間が下限。厚生労働省の睡眠ガイド2023では9〜12時間が推奨されています。
睡眠を削って練習を積んでも、ケガのリスクが上がり、技術は定着しません。睡眠は練習の成果を回収する時間です。
今夜、起床時刻から9時間を引いて、就寝目標を決めてみてください。そこから1日を設計し直すだけで、来月の子どもの動きは変わります。
よくある質問(FAQ)
休日の「寝だめ」は有効ですか?
ある程度は有効ですが、限界があります。平日の睡眠不足を完全に取り戻すことはできません。また、休日に2時間以上長く寝ると体内時計がずれ、日曜の夜に寝つけなくなります。目安は「いつもの起床時刻+1時間まで」。足りない分は、休日の昼に20分ほどの短い昼寝で補うほうが体は楽になります。
練習が21時に終わります。9時間睡眠は無理ですよね?
毎日は難しいので、1週間の合計で考えてください。練習が遅い日は8時間半、練習がない日は9時間半、という配分で週の平均を9時間に近づけます。加えて、帰宅後すぐ入浴する、宿題を朝に回す、帰りの車で寝かせない、の3つで30〜60分は取り戻せます。
成長ホルモンが出る「22時〜2時のゴールデンタイム」に寝かせるべき?
この説は現在では正確ではないとされています。成長ホルモンは特定の時刻ではなく、眠り始めの深いノンレム睡眠のときに多く分泌されると考えられています。つまり大事なのは「何時に寝るか」より「十分な長さ、深く眠れるか」。23時就寝でも深く長く眠れれば分泌されますが、総睡眠時間が短いと分泌の機会そのものが減ります。
試合の前夜に眠れないようです。どうすればいいですか?
前夜1晩の睡眠不足が試合の成績を大きく下げることはあまりありません。むしろ「眠らなきゃ」という焦りのほうが問題です。「眠れなくても大丈夫、横になってるだけで体は休まってるよ」と伝えて、プレッシャーを外してあげてください。本当に効くのは前夜ではなく、2〜3日前からの睡眠です。
昼寝はさせたほうがいいですか?
夜の睡眠が足りない期間の補助としては有効です。ただし20〜30分以内、15時までに。それより長いと夜の入眠が遅れ、悪循環になります。試合当日の移動中の仮眠も同じで、短時間にとどめましょう。
朝練があるので、どうしても睡眠時間が確保できません。
朝練がある日は、就寝時刻を前倒しするしかありません。それが難しい場合は、朝練の頻度そのものを見直す選択肢もあります。睡眠を削った朝練は、技術の定着を妨げ、ケガのリスクを上げます。指導者に相談しづらい場合でも、家庭でできる範囲として「朝練の日は夜の自主練をゼロにする」など、総量の調整から始めてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。


