ページを選択

トーナメントに弱い子供|負けたら終わりの試合で緊張して固まる原因と親の準備【リーグ戦では動けるのに固まる仕組み・一発勝負で起きる3つの変化・1週間前の「やり直せない1本」練習・当日朝に言わない一言・負けた直後24時間・親の3つの逆走・OK/NG声かけ例】

2026/10/19 | メンタル・本番力

リーグ戦では普通に動けるのに、トーナメントになると固まる。これは性格の弱さではなく「やり直せない」という前提に体が反応しているだけです。やり直せる試合とやり直せない試合では、子供の頭の中で起きていることがまったく違います。

だから対策も「気持ちを強くする」ではありません。やり直せない1本を、大会前の練習のなかに先に入れておく。これが一発勝負に強くなる唯一の近道です。

冬は各競技で全国大会の予選が重なります。市大会・県大会を勝ち上がるほど、試合は一発勝負ばかりになります。この記事では、トーナメントで固まる仕組みと、1週間前からの準備、当日朝に言わないほうがいい一言、そして負けた直後の24時間の過ごし方まで、家でできることだけをまとめます。

この記事の結論(先に3行)

1. 一発勝負に弱いのは性格ではなく、「やり直せない」という前提が注意の向きを変えるから。

2. 直すのは気持ちではなく練習の設計。「やり直せない1本」を週に数回入れる。

3. 当日の親の仕事は鼓舞ではなく「今日の1本に全部置いてこよう」と範囲を1本に縮めること。

【タイプ判定】タイプ: A(悩み解決型)

結論:一発勝負に弱いのは性格ではなく「やり直せない前提」のせい

最初に、親がいちばん誤解しやすいところを外しておきます。

トーナメントで固まる子は、気が小さいわけでも、勝ちたい気持ちが足りないわけでもありません。むしろ勝ちたい気持ちが強い子ほど固まります。

理由はシンプルです。リーグ戦の1本と、トーナメントの1本は、子供にとって「意味」が違うからです。

リーグ戦の1本トーナメントの1本
ミスをしたあと次の試合で取り返せる取り返す場がもうない
頭に浮かぶこと「次はこうしよう」「ここで終わるかもしれない」
注意の向き相手・ボール・味方自分の動き・結果
体の状態勝手に動く確認しながら動く
親から見た様子いつもの子別人のように小さく見える

この表の「注意の向き」の行が、すべての原因です。

人間は、失敗が許されない場面になると、注意を外(相手・ボール)から内(自分の動き)に向け替えます。これはスポーツ心理学で古くから研究されている現象です。

米ラトガース大学ユーススポーツ研究協議会(Rutgers Youth Sports Research Council)が整理した「プレッシャー下のチョーキング(choking)」の解説によると、重圧下の失敗には大きく2つの経路があります。ひとつは、成功や失敗のことを考えることでワーキングメモリ(短期的な作業記憶)が埋まってしまう「注意散漫(distraction)」。もうひとつが、不安によって自己意識が高まり、すでに自動化されている動きをわざわざ意識的に監視してしまう「自己注目(self-focus)」です。

そして重要なのは、この2つは熟練度によって出方が逆になるという点です。同解説が引くBeilockらの一連の研究では、技術がすでに身についている選手は「気を散らされること」にはあまり影響を受けず、「自分の動きを意識させられること」で明確に成績が落ちたと報告されています(ゴルフのパット、サッカーのドリブル、野球の打撃などで確認)。逆に、まだ技術が身についていない初心者は、気を散らされると落ちるが、自分の動きを意識しても大きくは落ちない、という結果です。

ここが腑に落ちるポイント

練習で上手い子=動きが自動化されている子ほど、一発勝負で「自分の動きを確認するモード」に入ると落ちます。つまり「練習では上手いのに本番で固まる」のは、上手くなった証拠でもあるのです。だから「気持ちの問題」として叱っても、絶対に直りません。

「練習では動けるのに本番で出せない」という状態そのものについては、練習では上手いのに本番で出せない子|原因と親の声かけ3つでも扱っています。この記事は、そこに「大会方式」という角度を足したものです。

リーグ戦では動けるのに、トーナメントで固まる仕組み

もう少し具体的に、子供の中で何が起きているかを見ます。

1. 試合の「数」が減ると、1本の重さが上がる

リーグ戦の子は、1年を通して何度も試合をします。1試合でミスをしても、次の週にもう1試合あります。

日本の高校サッカーでリーグ戦を導入した過程を調べた研究(岩崎健太郎、早稲田大学スポーツ科学研究科、2016年/埼玉県高校サッカーの事例研究)では、リーグ戦を段階的に導入した結果、年間の試合数が149試合から430試合へ、試合日数が年25日から61日へ増えたと報告されています。同研究は、トーナメントのみの仕組みでは敗退したチームに次の機会がないことを問題点として挙げ、リーグ戦のほうが育成に適していると整理しています。

つまり、トーナメント中心の環境に置かれている子は、構造的に「1本の重さ」が重い世界で戦っているということです。これは子供の資質とは関係ありません。

2. 「負けないこと」が目的になると、安全策しか選べなくなる

やり直せない前提では、子供の目的が静かにすり替わります。

  • リーグ戦:「これをやってみたい」(挑戦の方向に動く)
  • トーナメント:「これをやらないようにしたい」(失敗を避ける方向に動く)

この切り替えが起きると、技術は同じでも選択が変わります。パスを出せる場面で出さない。打てる球を見送る。前に行ける場面で下げる。親からは「消極的」に見えますが、子供は全力で「失敗しないこと」をやっています。

3. 大会そのものが「一発勝負だけ」ではない競技もある

ここは知識として持っておくと親の見方が変わります。

たとえばJFA(日本サッカー協会)の全国大会要項では、一次リーグ(グループ内の総当たり)を行い、上位が決勝トーナメントに進むという方式が採られている大会があります。「1回負けたら終わり」ではなく、「負けても計算上まだ残る試合」が序盤に置かれている形です。

お子さんが出る大会の要項を、親が先に読んでおいてください。「何回負けると終わりなのか」を子供が正確に知っているかどうかで、当日の固まり方が変わります。「負けたら終わり」と思い込んでいたのに、実はグループ戦で2試合あった、というケースは珍しくありません。

負けたら終わりの試合のあと座り込む小学生アスリート
一発勝負の試合では、ミスのあとに「立て直す場」そのものがない。

一発勝負で起きる3つの変化|親が見分けるサイン

トーナメントの日、子供には決まったパターンの変化が出ます。これを知っていると、当日の朝に気づけます。

変化1:安全策化(できることしかやらなくなる)

いちばん多い変化です。普段なら仕掛ける場面で仕掛けない。自分の持ち球のうち、確率の高いものだけを使う。

  • サッカー:前を向けるのに後ろに戻す/1対1を避ける
  • 野球:振れる球を見逃す/盗塁のサインに体が出ない
  • バスケ:打てる位置から回す/ドリブルで仕掛けない
  • 水泳・陸上:前半を抑えすぎて、記録が練習より遅い
  • 武道・体操:得意技を外して、確実に取れる技に変える

親の反応で絶対にやってはいけないのが「もっと攻めろ」です。子供は「攻めない」ことを選んでいるのではなく、攻める判断が出てこない状態です。指示を足しても処理する余裕がありません。

変化2:時間感覚のズレ(早すぎる・遅すぎる)

一発勝負では、動作のテンポが崩れます。方向は2つあり、子供によって逆になります。

タイプ出方親が気づく場所
急ぐ型構える時間が短くなる/ルーティンを飛ばす/指示を聞き終える前に動く試合前のアップが短い、水を飲まない
固まる型普段より長く止まる/動き出しが半歩遅い/確認が増える構えてから動くまでが明らかに長い

「急ぐ型」のほうが見落とされがちです。本人は「気合が入っている」と感じていますが、実際は怖さから早く終わらせようとしているだけのことがあります。

変化3:ミス後の停止(1つのミスで試合が終わる)

これが一発勝負でいちばん損をする変化です。

リーグ戦なら、ミスをしても「次の試合で」と切り替えられます。トーナメントではその逃げ場がないので、ミスがそのまま「もう終わりだ」という結論になります。そこから先、プレーが止まります。

前述のラトガース大学の解説でも、「序盤のミスから立て直すこと」はフロー状態を続けることより難しいと指摘されています。だから準備すべきなのは、ミスをしないことではなく、ミスの後に戻る手順です。

〇 OK声かけ例

  • 「1個ミスしても、その次の1本は普通にやれるよ。そこだけ練習しよう」
  • 「ミスしたら、まず一回だけ息を吐いて顔を上げる。それが決まり事」
  • 「今日は、ミスの後に戻れたら勝ちにしよう」

× NG声かけ例

  • 「ミスするなよ」(=ミスに注意を向けさせる)
  • 「さっきの1本が全部だったな」(=1つのミスを試合全体に広げる)
  • 「切り替えろ!」だけ(=切り替える手順を渡していない)

1週間前からの準備|「やり直せない1本」に慣れる練習の作り方

ここが本題です。一発勝負に強くなる方法は、一発勝負を練習に入れること以外にありません。気持ちの話ではなく、設計の話です。

ラトガース大学の解説も、予防策の中心に「結果のついた練習(pressure practice)」を挙げています。「5本連続で入れるまで終わらない」といった、失敗が実際に意味を持つドリルを入れることで、重圧下での自信がつくという整理です。あわせて「観客の声などの妨害を入れた練習」も推奨されています。

これを、家でできる形に落とします。所要時間は1日10分以内で十分です。

「1本勝負ドリル」の作り方(3ステップ)

  1. やり直せない1本を宣言する。「今から1本だけ。この1本で今日は終わり」と声に出して決める。やり直し禁止を先に言うのが肝心です。
  2. 結果に小さな意味をつける。入ったら親が皿洗い、外したら本人が皿洗い。勝敗の重みを「ゼロではないが、軽い」ところに置きます。罰にしないこと。
  3. 1本終わったら本当に終わる。ここで「もう1本やろう」と言ってしまうと、ドリルの意味が消えます。やり直せない経験を積むのが目的です。

競技別の「1本勝負ドリル」例

サッカー:壁当てで決めたコースに1本だけ。または家の前でPK1本(親がキーパー)。

野球:ティー打撃で狙った方向に1本だけ。投手なら的に1球だけ。

バスケ:決めた位置からフリースロー1本だけ。

水泳:家では「25m分の呼吸リズムを目を閉じて1回だけ通す」。

陸上:スタートの構えから3歩だけを1回。

卓球・バドミントン:壁打ちでサーブの形を1本だけ。

1週間の組み方

時期やることやらないこと
7〜5日前1本勝負ドリルを毎日1回。まだ外れても気にしない段階新しい技術の練習
4〜3日前1本勝負ドリルに「音」を足す(テレビをつける/親が声を出す)動作の細かい修正
2日前大会要項を一緒に読む。「何回負けると終わりか」を確認「負けたら終わりだぞ」の確認
前日ドリルは1回だけ。あとは寝る準備作戦会議・動画の見直し
当日朝何もしない。声かけだけ最終確認・技術の指示

大会前1ヶ月単位での組み方は大会1ヶ月前からの子供の過ごし方に詳しく書いています。前日の夜に何をするかは試合前のルーティンの作り方が使えます。

やってはいけない準備:動作の確認を増やすこと

大会が近づくと、親はつい「フォームを見てあげよう」としがちです。これは一発勝負に対しては逆効果です。

前述のBeilockらの研究が示すとおり、すでに動きが身についている子は「自分の動きを意識させられること」で成績が落ちます。大会1週間前に「肘が下がってる」「膝が伸びてる」と伝えるのは、本番で自己注目を起こす引き金を親が渡しているのと同じです。

どうしても声をかけたいときは、部分の指示ではなく、1語の全体イメージにしてください。同解説が引くJacksonらの研究(2006年)では、「なめらかに」「強く」といった包括的なプロセス手がかり(process cue)が、重圧下のパフォーマンスを助けると報告されています。

〇 OK声かけ例

  • 「今日は“なめらか”でいこう」(1語だけ渡す)
  • 「相手のどこを見るかだけ決めておこう」(注意を外に向ける)
  • 「狙うところを1つに決めて、あとは任せる」

× NG声かけ例

  • 「肘が下がってるから気をつけて」(動作に注意を向ける)
  • 「3つ意識することがあるからね」(処理量を増やす)
  • 「落ち着いていこう」だけ(何をすれば落ち着くか渡していない)

当日の朝、親が絶対に言わないほうがいい一言

結論から書きます。「ここで負けたら終わりだぞ」「今日で決まるぞ」は言わないでください。

親にそのつもりはなく、多くは奮い立たせたくて出る言葉です。けれどこの一言は、子供の注意を「この試合の結果」に固定します。すでに書いたとおり、結果に注意が向くと、安全策化とミス後の停止が起きます。固まらせたくて言う親はいないのに、固まらせる効果しかありません。

代わりに使う一言:範囲を「1本」に縮める

当日朝の親の仕事は、鼓舞ではありません。子供が背負っている範囲を縮めることです。

大会・県大会・全国への道、という長い線を背負っている状態から、「今日の最初の1本」まで範囲を縮めてやる。これが当日いちばん効きます。

〇 OK声かけ例

  • 「今日の1本に全部置いてこよう」
  • 「最初の1本だけ決めていこう。あとはそのとき考えればいい」
  • 「終わったあと、ごはん何にするか決めといて」(=試合の後も日常が続くと示す)
  • 「見てるね」だけ(評価の言葉を足さない)

× NG声かけ例

  • 「ここで負けたら終わりだぞ」
  • 「今日で決まるぞ」
  • 「お父さん(お母さん)のためにも頑張れ」
  • 「相手は弱いから大丈夫」(勝ち前提を押しつける)
  • 「負けても怒らないから」(=負けを先に話題にしている)

「負けても怒らないから」がNGな理由

善意の言葉ですが、子供の頭に「負ける」という言葉を入れてしまいます。ラトガース大学の解説でも、予防策として「外すな」ではなく「狙っていけ」のように、望ましい行動のほうを言葉にすることが挙げられています。否定形の指示は、否定した中身を意識させます。朝は「負け」という単語そのものを出さないほうが安全です。

会場に着いてからの3つだけ

  1. 要項の確認を一緒にしない。確認は2日前に済ませてある前提。当日は触れません。
  2. 待機時間に技術の話をしない。待ち時間が長い大会ほど、親の雑談が最後の指示になります。
  3. 最後の言葉は短く。「今日の1本」か「見てるね」で終わる。長いほど処理が増えます。

会場の雰囲気そのものに飲まれるタイプの子は大きな大会で緊張する子供へ、親が見ていることで固まるタイプは親が見てると緊張する子供のほうが近いかもしれません。

負けた直後の声かけ|24時間は結果に触れない

一発勝負で負けた日は、他の負けとは違います。次の試合が存在しないので、気持ちの置き場がありません。

ここで親がやるべきことは、たった1つです。24時間、結果に触れないこと。

なぜ24時間か

負けた直後の子供は、情報を受け取れる状態ではありません。この時点で原因の話をしても、残るのは「親に責められた」という記憶だけです。

一方で、24時間を過ぎると子供の側から話し始めることが多い。順番が逆になるだけで、同じ内容がまったく違って届きます。

時間帯親がすること親がしないこと
試合直後荷物を持つ。水を渡す。黙って隣にいる「どうだった?」と聞く
帰り道音楽をかける/窓を開ける。沈黙を許す原因の分析・他の子との比較
その夜食事を出す。普段どおりの時間に寝かせる来年の話・次の目標の話
翌日以降子供が話し出したら、最後まで聞く親から試合の話を始める

反応は3パターンに分かれる

同じ負けでも、子供の出方は分かれます。親はこれを「態度」と読み違えやすいので、整理しておきます。

  • 泣く子:いちばん分かりやすく、いちばん心配が少ない。止めずに泣かせて大丈夫です。
  • 黙る子:処理に時間が必要なタイプ。話しかけないこと自体が支えになります。
  • 明るすぎる子:いちばん注意が必要。平気なふりで家族を守っていることがあります。数日後に反動が出ます。

「明るすぎる子」には、その場で崩さないでください。「ふりをしなくていい」と言うのは、ふりを剥がす行為になります。代わりに、1〜2日後に「あの試合、まだ残ってる感じある?」と、過去形で短く聞くほうが安全です。

〇 OK声かけ例

  • (直後)何も言わず、荷物を持つ
  • (直後)「おつかれ。帰ろう」
  • (夜)「今日はもう終わり。ごはん食べて寝よう」
  • (翌日以降)「話したくなったら聞くよ」
  • (翌日以降)「あの1本、自分ではどう思ってる?」

× NG声かけ例

  • (直後)「あそこで打たなかったのが全部だったな」
  • (直後)「来年があるから」(本人の今日を飛ばしている)
  • (夜)「あの時こうしてればね」
  • (翌日)「悔しくないの?」
  • (いつでも)「あれだけ練習したのにね」

県大会で負けて全国への道が閉じた日の、もっと長い時間軸での関わり方は全国大会に行けなかった子供への声かけにまとめています。

次の大会までに積む「負け方の経験」

一発勝負に強い子は、勝ち方を知っている子ではありません。負けても自分が終わらないことを、体で知っている子です。

これは説明では伝わりません。経験の量で決まります。だから次の大会までの数ヶ月でやることは、「勝たせる」ではなく「小さく負ける機会を増やす」です。

家でできる3つ

  1. 親が本気で勝ちにいく勝負を、週1回やる。トランプ、オセロ、腕相撲でいい。わざと負けないのが条件です。「親に負ける」は安全な負けの練習になります。
  2. 1本勝負ドリルを、大会がなくても続ける。大会前だけやると「大会用の特別な儀式」になり、緊張と結びついてしまいます。日常に置いておくこと。
  3. 負けた話を家で普通に話す。親自身の失敗を、落ちをつけずに短く話す。「あれは悔しかったな」で終わらせる。教訓にしないのがコツです。

リーグ戦・練習試合を意図的に使う

リーグ戦や練習試合は、本来「負けても次がある」形式です。ここを「やり直せる場」として使い切ってください。

JFAが掲げる育成の考え方としてよく語られるM-T-M(Match-Training-Match)は、試合で見つかった課題を練習で直し、次の試合で試す、という循環です。リーグ戦が育成に向くとされるのは、この「次の試合」が約束されているからです。

親が言葉にできることは1つです。練習試合やリーグ戦では「失敗していい日だよ」と先に言う。やり直せる試合でやり直せる経験を積んだ子だけが、やり直せない試合に耐えられます。

大会のあり方そのものについて知っておくと、親が楽になる

最後に、親の肩の荷を軽くする事実を置いておきます。

全日本柔道連盟は2022年に、小学生の全国大会を廃止しました。指導者の過度な勝利志向によって子供が苦しんでいるという判断です。これについてスポーツ庁の室伏広治長官は同年4月19日の記者会見で、個人的な見解として「(年齢が)早い段階から全国大会をやる意義はあるのかと個人的には思う」「真の日本一というのは高校生や大人になってからじゃないと(王者を)選ぶことができないんじゃないかと思う」と述べ、この決定を支持しています。

つまり、小学生の一発勝負に過度な意味を持たせないほうがいいというのは、競技団体や行政の側も認めている方向です。目の前の1大会がすべてだと感じているのは、たいてい親のほうです。そこが緩むだけで、当日の声かけは変わります。

勝ち上がるほど守りに入ってしまう子については勝つほど怖いと言う子供への関わり方も参考になります。

親の3つの逆走|よかれと思ってやっていること

逆走1:大会前に技術の修正を足す

いちばん多い逆走です。大会が近いほど、親は「直せるところを直したい」と思います。けれど一発勝負で落ちる原因は、動作への自己注目です。修正を渡すことは、本番で監視するための材料を渡すことになります。

大会1週間前からは、新しい情報をゼロにしてください。足すのは「1語の全体イメージ」だけです。

逆走2:覚悟を決めさせようとする

「ここが勝負だぞ」「背水の陣だ」と言って、気持ちを引き締めようとする。親世代が受けてきた言い方です。

ただ、これは結果に注意を固定します。結果に注意が向くと安全策化が進むので、覚悟を決めさせるほど消極的なプレーになるという逆の結果になります。覚悟は子供が自分で決めるもので、親が外から入れるものではありません。

逆走3:負けた直後に「次」を提示する

「来年がある」「次の大会がある」。親としてはいちばん優しいつもりの言葉です。

けれど子供は今日の負けの処理をまだしていない。そこに次の話を置くと、「今日のことは話してはいけないんだ」と受け取ります。次の話は、本人が今日を話し終えてからで十分間に合います。

今日からできる行動(3つだけ)

1. 「1本勝負ドリル」を今日1回やる。やり直し禁止を先に宣言して、1本で本当に終わる。

2. 次の大会の要項を親が読む。「何回負けると終わりなのか」を2日前までに子供と共有する。

3. 当日朝の第一声を決めておく。「今日の1本に全部置いてこよう」をメモして、朝はそれだけ言う。

OK声かけ例/NG声かけ例まとめ【場面別】

場面〇 OK声かけ例× NG声かけ例
1週間前「今日は“なめらか”でいこう」「肘が下がってるから直しておこう」
2日前「要項見たら、最初はグループ戦で2試合あるみたい」「次負けたら終わりだからな」
前日の夜「もう寝よう。明日は普通に起きるだけ」「明日のために動画見ておこう」
当日朝「今日の1本に全部置いてこよう」「今日で決まるぞ」
会場で別れる時「見てるね」「3つだけ意識してね」
ミスした後「次の1本だけ普通にやろう」「切り替えろ!」だけ
試合直後(負け)(何も言わず荷物を持つ)「あそこが全部だったな」
帰り道「おつかれ。ごはん何にする?」「来年があるから」
その夜「今日はもう終わり。寝よう」「あれだけ練習したのにね」
翌日以降「話したくなったら聞くよ」「悔しくないの?」

この表の一貫したルールは1つです。親の言葉は、子供が背負う範囲を広げる方向ではなく、縮める方向に使う。一発勝負の日は、それだけで十分です。

よくある質問

リーグ戦では普通にできるのに、トーナメントだけ別人になります。性格の問題でしょうか。

性格ではなく、試合形式への反応です。やり直せない前提になると、注意が相手やボール(外)から自分の動き(内)に向き替わります。ラトガース大学ユーススポーツ研究協議会がまとめたチョーキングの解説では、すでに技術が身についている選手は「自分の動きを意識させられること」で成績が落ちると報告されています。つまり練習で上手い子ほど起きやすい現象です。対策は気持ちの強化ではなく、「やり直せない1本」を練習に入れることです。

大会1週間前です。今からできることはありますか。

あります。1日10分以内で構いません。「今から1本だけ、やり直しなし」と宣言して1本やり、本当に1本で終わる。これを毎日1回続けてください。結果には皿洗いなど軽い意味だけをつけ、罰にはしません。逆に、この1週間で技術の修正を足すのはやめてください。動作の指摘は、本番で自分の動きを監視する材料になります。

当日の朝、どう声をかければいいですか。

範囲を縮める言葉を1つだけにしてください。「今日の1本に全部置いてこよう」「最初の1本だけ決めていこう」が使いやすいです。避けたいのは「今日で決まるぞ」「ここで負けたら終わりだぞ」。結果に注意を固定して、安全策しか選べない状態を作ります。「負けても怒らないから」も、朝に「負け」という単語を入れてしまうので避けます。

試合でミスをした後、立て直せずに終わってしまいます。

切り替えの手順を先に決めておくのが有効です。「ミスしたら一回だけ息を吐いて顔を上げる」など、1動作だけにします。「切り替えろ」という言葉だけでは、何をすればいいか分からず止まります。練習でも、意図的にミスを起こしてから次の1本をやる形を入れてください。一発勝負では、ミスをしないことより、ミスの後に戻れることのほうが得点になります。

負けた直後、何を言えばいいか分かりません。

24時間は結果に触れないでください。直後は荷物を持ち、水を渡し、黙って隣にいるだけで十分です。「どうだった?」も控えます。帰り道も原因の分析や他の子との比較はしません。翌日以降、子供が話し始めたら最後まで聞く。この順番にすると、同じ内容がまったく違って届きます。

負けたのに明るく振る舞っています。放っておいていいですか。

その場では崩さないでください。平気なふりで家族を守っている場合があり、「ふりをしなくていい」と言うのはふりを剥がす行為になります。代わりに1〜2日後、「あの試合、まだ残ってる感じある?」と過去形で短く聞いてみてください。数日後に食欲や睡眠、練習への足取りに変化が出ていないかも見ておきます。

小学生の一発勝負に、親がどこまで本気になるべきか迷います。

親が緩んでいるほうが子供は力を出します。全日本柔道連盟は2022年に小学生の全国大会を廃止し、スポーツ庁の室伏広治長官も同年4月19日の会見で、個人的見解として「早い段階から全国大会をやる意義はあるのかと個人的には思う」「真の日本一というのは高校生や大人になってからじゃないと選ぶことができない」と述べて支持しています。目の前の1大会に過度な意味を持たせないのは、競技団体や行政も向かっている方向です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。