同点のまま笛が鳴り、PK戦になった。わが子が3人目に歩いていく。助走。ボールはバーの上。相手の最後のキッカーが決めて、試合が終わった。整列のあと、わが子は列の端で下を向いたまま動かない。
結論から言います。この日の第一声は「ドンマイ」でも「惜しかったね」でもなく、「おつかれ。帰ろう」です。慰めも評価も、本人が口を開くまで出さない。そして帰るまでのどこかで、必ず一度だけ「蹴る役を引き受けた」という事実を言葉にする。PKを外した日に親がやることは、この2つだけです。
この記事は、「PK戦で外して、チームが負けた日」に絞って、外した直後・帰り道・その夜・翌日の4場面で親が何を言い、何を言わないかをまとめたものです。負けた試合の一般的な声かけや、フォワードが点を取れない時期の関わり方は別記事にあります(記事末尾で紹介します)。
この記事の要点
- 第一声は「おつかれ。帰ろう」。「ドンマイ」は本人の中では「それで済む話じゃない」と受け取られる
- PKは、試合中のミスと違って「負けの責任が自分ひとりに集中して見える」出来事。だから特別に重い
- 帰るまでに一度だけ「蹴る役を引き受けた」事実を言葉にする。結果ではなく、立ったことを見ていたと伝える
- 「外したのは自分」と「負けたのはチーム」を分けて整理するのは、その夜の仕事
- 「次は決めよう」「もう一回蹴る練習しよう」は、翌日以降も親から言わない。本人とコーチの領域
PKを外した子供の中で起きていること
試合中のシュートミスやパスミスで、ここまで落ち込む子は多くありません。PKだけが別格に重いのには、理由があります。親が先に理解しておくべき構造は3つです。
1. 負けの責任が「自分ひとり」に集中して見える
90分(小学生なら40分)の試合は、全員のプレーの積み重ねで決まります。でもPK戦は、ひとりずつ順番に、全員が見ている前で、「決めた」か「外した」かの二択で記録されます。本人の中では、「あのPKがなければ勝っていた」という一本の線が、試合の全部を上書きしてしまいます。
実際には、PK戦に持ち込まれるまでに、決めきれなかったチャンスも守りきれなかった場面も無数にあります。でも外した本人には、その全部が見えなくなっている。「外した子だけが、負けの理由を一人で抱えている」。これがPKを外した日の、いちばん大きな特徴です。
2. 「仲間が自分をどう見ているか」が頭から離れない
外した瞬間、チームメイトの顔を見てしまった子は、その表情を帰ってからも何度も思い出します。たとえ仲間が「ドンマイ」と言ってくれていても、本人には「本当は責めてるんじゃないか」という疑いが残ります。この疑いは、本人が自分を責めている間は消えません。
3. 「次も自分が蹴る場面が来る」ことが怖い
試合中のミスは、次のプレーで取り返せます。でもPKを外した子は、「また同じ場面が来たらどうしよう」という先の不安を持ち帰ります。この不安が強い子ほど、翌日以降に「もう蹴りたくない」「PKの練習をしたくない」という言葉になって出てきます。
「ドンマイ」が届かない理由
周りの大人も仲間も、まず「ドンマイ」と言います。悪い言葉ではありません。ただ、外した本人の中では、こう変換されています。「ドンマイで済む話じゃない。みんなはそう言うけど、負けたのは自分のせいだ」。
慰めの言葉は、本人の痛みを「小さく扱っている」と受け取られることがあります。「気にするな」「大丈夫」「誰でも外す」。どれも正しい。でも、まだ痛みの真っ只中にいる子には、正しい言葉より、「痛いままでいていい」という許可のほうが先に必要です。
だから第一声は「おつかれ。帰ろう」で止めます。評価も慰めもしない。帰り道で本人が口を開いたら、そこから言葉を足していきます。
4場面の声かけ:外した直後・帰り道・その夜・翌日
ここからは、時間の流れに沿って、親が何を言い、何を言わないかを場面ごとにまとめます。全部やる必要はありません。「直後」と「帰り道」の2つだけ守れれば、この日はほぼ乗り切れます。
場面1:外した直後(整列〜解散まで)
親の出番はありません。整列、挨拶、コーチの話、仲間からの言葉。この順番で、本人には先に受け取るべきものがあります。親が近づいて声をかけるのは、その後です。
目が合ったら、うなずくだけ。手を振るのも、親指を立てるのもいりません。「見ていたよ」が伝われば十分です。泣いていても、近づかない。チームの中で泣ける子は、チームの中で立ち直ります。
注意したいのは、他の保護者への対応です。「すみません、うちの子が」と周りに謝って回る親がいます。これは絶対にやめてください。本人が顔を上げた時に、親が頭を下げている姿を見たら、「やっぱり自分は悪いことをした」と確定してしまいます。他の親から「惜しかったね」と言われたら、「ありがとうございます」だけで返します。
OK声かけ例
- (目が合ったら)無言でうなずく
- (他の親に)「ありがとうございます」だけ返す
- (解散後、近づいて)「おつかれ。帰ろう」
NG声かけ例
- 「ドンマイ!」と大声で呼ぶ
- 「すみません、うちの子が外しちゃって」と周りに謝る
- 泣いている子に駆け寄って抱きしめる(本人が来るまで待つ)

場面2:帰り道(車内・電車)
ここがこの日の山場です。車に乗ってドアが閉まった瞬間、子供は「何を言われるか」を身構えています。だから最初の数分は、何も言わない。音楽をかける、窓を開ける、コンビニに寄る。いつもと同じ帰り道にします。
泣き出したら、泣かせます。「泣くな」も「泣いていいよ」も言いません。ティッシュを渡すだけ。本人が口を開いたら、そこで初めて言葉を足します。
本人が話し出した時に、一度だけ言ってほしいことがあります。「蹴る役を引き受けた」という事実です。立候補したのか、コーチに指名されたのかは関係ありません。あの場に歩いていって、ボールを置いて、蹴った。そのこと自体が、全員にできることではないと伝えます。
これは慰めではありません。「見ていた事実」の報告です。結果の話をする前に、立ったことを認める。この順番を間違えると、「結果が出なかったから慰められている」という受け取りになります。
OK声かけ例
- 「おつかれ。帰ろう」(それ以上は言わない)
- 「蹴る役、引き受けたんだね。あそこに歩いていくの、見てた」
- 「悔しいよね。今日はそのままでいい」
- (本人が「自分のせいで負けた」と言ったら)「そう思うよね。でも、お父さんはそう思ってない。理由は家で話す」
NG声かけ例
- 「ドンマイ、次決めればいいよ」
- 「なんであそこで浮かせたの?」「もっと低く蹴れば」
- 「誰でも外すんだから気にするな」(まだ早い)
- 「でもみんな頑張ったんだから、ほら元気出して」
帰り道の車内を反省会にしない考え方は、別記事「試合後の車内での声かけ」で詳しく書いています。
場面3:その夜(食事〜寝るまで)
家に着いてからは、本人のペースに任せます。ご飯を食べる、風呂に入る、いつもの夜にする。ただ、この夜にひとつだけやってほしい整理があります。「外したのは自分」と「負けたのはチーム」を分けることです。
本人の中では、この2つが1本の線でつながっています。「外した→負けた→自分のせい」。親は、この線を切ります。やり方は簡単で、PK戦になるまでの試合を一緒に思い出すだけです。「前半の、あのシュートが入ってたら、PKはなかったよね」「相手のフリーキック、よく止めたよね」。試合は全員で作ったものだと、事実で示します。
ここで気をつけたいのは、「じゃあ○○くんのミスのせいだ」という方向に話を持っていかないこと。責任を誰かに移すのではなく、責任が「みんなのもの」だと伝えます。
試合の動画を見るのは、この夜はやめておきます。外した場面をもう一度見るのは、本人が「見たい」と言った時だけです。
OK声かけ例
- 「PKになる前に、点を取るチャンスは何回あった?」(全員の試合だったと気づかせる)
- 「外したのは○○。でも負けたのはチーム。これは別の話」
- 「今日のこと、明日も話したくなったら聞くよ」
NG声かけ例
- 「動画見て、どこが悪かったか確認しよう」
- 「キーパーが止めてたら勝ってたのにね」(責任を他の子に移す)
- 「お母さんもあの時、ダメだと思った」
- 「明日から毎日PKの練習ね」
場面4:翌日以降(次の練習まで)
翌日になると、本人は少し落ち着いています。ここで親がやりがちなのが、「次のPKは蹴る?」と聞くこと。これは聞きません。本人が決めること、コーチが決めることで、親が先回りして確認する必要はありません。
練習のことも同じです。「PKの練習しよう」と親から持ちかけない。本人が「蹴る練習したい」と言ったら、公園に付き合う。言わなければ、そのままにする。外した翌日に練習を増やすのは、「失敗したから罰がある」という学習になりかねません。
翌日に親が見るべきは、「練習に行くかどうか」だけです。いつも通り行けば、それで大丈夫。「行きたくない」と言った時の対応は、次の章で書きます。
OK声かけ例
- 「今日、練習どうする?」(行く前提で聞かない)
- 「昨日のこと、まだ残ってる?」(1回だけ聞く)
- (本人が練習したいと言ったら)「いいよ、付き合う」
NG声かけ例
- 「次のPKは蹴るの?」
- 「今日から毎日10本蹴ろう」
- 「昨日のことはもう忘れた?」(忘れることを求める)
子供のタイプ別:3つの反応とそれぞれの声かけ
PKを外した後の子供の反応は、大きく3つに分かれます。それぞれ、必要な言葉が違います。
| 反応のタイプ | 特徴 | 親が見るべきこと | 必要な言葉 |
|---|---|---|---|
| 自分を責め続ける子 | 「自分のせいで負けた」を何度も言う。夜も翌日も引きずる | 責めている時間の長さ。2日を超えたら要注意 | 「責めるのは今日まで」と期限を区切る |
| 平気なふりをする子 | すぐ明るく振る舞う。試合の話を避ける。「別に」で終わらせる | ひとりになった時の様子。寝る前、風呂上がり | 「話したくなったら聞くよ」と置いておく |
| 「もう蹴りたくない」と言う子 | 次のPKを拒否する。キッカーを降りたいと言う | 怖さの正体が「外すこと」か「仲間の目」か | 「蹴らない選択もある」と先に認める |
自分を責め続ける子には「期限」を渡す
「自分のせいで負けた」を繰り返す子は、責めることで責任を取ろうとしています。本人なりの誠実さです。だから「責めるな」とは言いません。代わりに、期限を渡します。「今日は責めていい。でも明日の練習に行ったら、終わり」。
スポーツ心理学では、失敗の後に自分を責め続けることより、「自分に対する思いやり(セルフ・コンパッション)」を持つ選手のほうが、失敗後の反すう(同じことを考え続けること)が少なく、立ち直りが早いことが報告されています。カナダのMosewichらが2013年に行った研究では、セルフ・コンパッションを高める働きかけを受けた若い女性アスリートは、自己批判と反すうが減ったという結果が出ています。「責めていい、でも期限がある」という親の言葉は、この自分への思いやりを外側から渡すものです。
平気なふりをする子には「話す場所」を置いておく
帰り道で妙に明るい、試合の話をすると「別に」と返す。こういう子は、痛みを家に持ち込まないように蓋をしています。蓋を無理に開けません。「話したくなったら聞くよ」と一度だけ言って、放っておきます。多いのは、寝る前に布団の中で急に話し出すパターンです。その時間を空けておきます。
「もう蹴りたくない」と言う子には「蹴らない選択」を先に認める
「次はもうPK蹴りたくない」と言われた時、親は「そんなこと言わないで」と返したくなります。でも、先に認めます。「蹴らないっていう選択もあるよ。それは逃げじゃない」。蹴らない道を認めてもらえた子のほうが、結果的にもう一度蹴ることを選びやすい。退路を断たれると、人は動けなくなります。
ただし、怖さの正体は聞いておきます。「外すのが怖い」のか、「外した時のみんなの顔が怖い」のか。後者なら、仲間との関係の話であって、PKの話ではありません。「あの時、○○くんは何て言ってた?」と、仲間がかけてくれた言葉を一緒に思い出すのが効きます。
プロでも外す、という事実をどう使うか
「プロだって外すんだから」は、外した直後には届きません。でも、数日たって本人が落ち着いた時、事実として知っておくと役に立つ話があります。
ノルウェー・スポーツ科学大学のGeir Jordetらが2009年に『Psychology of Sport and Exercise』誌に発表した研究によると、ワールドカップや欧州選手権、チャンピオンズリーグのPK戦を分析したところ、審判の笛が鳴ってから0.2秒以内に急いで蹴った選手の成功率は約57%、1秒以上待ってから蹴った選手の成功率は約80%でした。研究者たちは、重圧の中で「早くこの場面を終わらせたい」という心理が働き、急いで蹴ることで成功率が下がると説明しています。
この研究が親に教えてくれることは2つあります。ひとつは、世界トップの選手でも、大舞台のPKを5本に1本以上は外すということ。もうひとつは、外す原因の多くが技術ではなく、「早く終わらせたい」という気持ちだということです。
つまり、わが子が外したのは、「下手だから」ではありません。「怖かったから」です。そして怖さは、親の関わり方で増えもするし、減りもします。外した日に親が責めれば、次のPKはもっと怖くなる。外した日に親が「立ったことを見ていた」と言えば、次のPKは少し怖くなくなる。この記事で書いてきた声かけは、全部そのためのものです。
本人に伝える時は、数字を押しつけません。「プロでも、急いで蹴ると外しやすいんだって。あと、プロでも5本に1本は外すらしいよ」。これくらいで十分です。
親がやりがちな3つの逆走
善意でやって、逆効果になる行動が3つあります。どれも、親自身の動揺から出てくるものです。
逆走1:技術の話にすり替える
「なんで浮かせたの」「もっと低く蹴れば」「助走が長すぎた」。親は分析することで「次に活かせる」と思っています。でも本人には、「失敗した上に、ダメ出しまでされた」としか残りません。蹴り方の話は、コーチと本人の領域です。親が入ると、本人は家でもサッカーの評価を受けることになります。
逆走2:「気にするな」を連発する
「気にするな」「大丈夫」「誰でも外す」。1回なら慰めですが、3回言えば「もう落ち込むのをやめてほしい」というメッセージになります。本人は、親が自分の落ち込みを持て余していると感じて、感情を隠すようになります。落ち込みは、放っておけば自然に薄れます。急がせないことが一番です。
逆走3:親が本人より落ち込む・本人を責める
外した場面を見て、親のほうが動揺することがあります。帰りの車で無言になる、ため息をつく、翌日も沈んでいる。本人は、親の落ち込みを見て「自分は親まで悲しませた」と二重に背負います。
逆に、動揺が怒りになる親もいます。実際に、PKを外した小学5年生の子に、母親がメッセージで「PK外すくらいならサッカーやめろ」と送ってしまい、子供が「下手くそと言われたのはいいけど、やめろと言われたのが辛かった」と匿名の相談サイトに書き込んだ例があります。親に悪意はなく、悔しさが言葉になっただけでしょう。でも「結果が悪ければ、居場所がなくなる」と子供が学んだ瞬間、次のPKは「外したら終わり」の場面になります。親の動揺は、子供の前ではなく、別の場所で処理します。
今日からできる3つの行動
- 第一声を決めておく。「おつかれ。帰ろう」。この一言を、PK戦が始まる前に心の中で用意しておく。慰めも評価も、本人が口を開くまで出さない
- 帰り道で一度だけ「立ったこと」を言葉にする。「蹴る役、引き受けたんだね。見てた」。結果の話の前に、あの場に歩いていった事実を認める
- その夜に「外した」と「負けた」を分ける。PK戦になる前の試合を一緒に思い出し、負けはチーム全員のものだと事実で示す。動画は本人が見たいと言うまで開かない
この3つができれば、PKを外した日は「サッカーをやめたくなる日」ではなく、「親が見ていてくれたと知る日」になります。そして次にPKの場面が来た時、本人の足を止めるものが、ひとつ減ります。
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よくある質問
PKを外した直後、泣いている子供に駆け寄ってもいいですか?
駆け寄らないのが基本です。整列・挨拶・コーチの話・仲間からの言葉と、本人が先に受け取るべきものがあります。親はその後です。目が合ったらうなずくだけにして、解散してから「おつかれ。帰ろう」と声をかけます。チームの中で泣ける子は、チームの中で立ち直ります。
「自分のせいで負けた」と言われたら、何と返せばいいですか?
否定も肯定もせず、まず「そう思うよね」と受け止めます。そのうえで「でも親はそう思っていない。理由は家で話す」と伝え、その夜にPK戦になるまでの試合を一緒に思い出します。「外したのは自分」と「負けたのはチーム」を分けて整理するのが、この日の親の仕事です。
「もうPKは蹴りたくない」と言っています。説得すべきですか?
説得しません。先に「蹴らない選択もある。それは逃げじゃない」と認めます。退路を認めてもらえた子のほうが、結果的にもう一度蹴ることを選びやすくなります。そのうえで、怖いのは「外すこと」なのか「仲間の目」なのかを聞いておくと、必要な言葉が見えてきます。
次の日からPKの練習をさせたほうがいいですか?
親からは持ちかけません。外した翌日に練習を増やすと、「失敗したから罰がある」という学習になりかねません。本人が「蹴る練習したい」と言ったら付き合い、言わなければそのままにします。蹴り方の話はコーチと本人の領域です。
他の保護者から「惜しかったね」と言われたら、どう返せばいいですか?
「ありがとうございます」だけで返します。「すみません、うちの子が」と謝るのは絶対に避けてください。本人が顔を上げた時に親が頭を下げていたら、「自分は悪いことをした」と確定してしまいます。
「プロでも外す」という話は、いつ伝えるのが効果的ですか?
外した直後ではなく、数日たって本人が落ち着いてからです。Jordetらの研究では、世界トップの選手でも大舞台のPKを5本に1本以上外しており、急いで蹴った選手ほど成功率が下がることが示されています。「下手だから外したのではなく、怖かったから」という理解を、本人と共有する材料として使います。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。



