結論から言います。子供が目標を言わなくなったのは、多くの場合「やる気がなくなった」からではありません。現実が見え始めた成長のサインです。親がやるべきは、目標を聞き出すことではなく、理由を見分けて「言葉にできる状態」を取り戻すこと。この記事でその手順を具体的に示します。
低学年の頃は「全国に行く」「プロになる」と何度も口にしていた。それが5年生、6年生になると急に言わなくなる。聞いても「別に」「わかんない」。県大会に出るほど頑張っているのに、口を開かない。
この変化を「熱が冷めた」と受け取ってしまう親は多いです。でも、練習には行っている。試合には出ている。やめたいとも言わない。ならば、意欲は残っています。変わったのは「意欲」ではなく「表現」のほうです。
目標を言わなくなった=やる気を失った、ではない
低学年の「全国に行く」は、目標というより「なりたい自分の宣言」です。距離感がないから、気軽に口にできます。高学年になると、自分の実力、チームの位置、上には上がいることが見えてきます。宣言と現実の距離が測れるようになった。だから軽々しく言えなくなった。それだけです。
発達心理学では、児童期後期(9〜11歳頃)に自己評価が現実的になり、他者との比較を通じて自分の能力を判断するようになるとされています。心理学者スーザン・ハーターの一連の研究によると、この時期の子供は「できる自分」を無条件に信じる段階から、周囲と比べて「どのくらいできるか」を判断する段階へ移行します。つまり、目標を口にしなくなるのは、認知の発達として自然な現象です。
問題なのは「言わなくなったこと」ではなく、言わないまま目標が内側から消えてしまうことです。ここを区別できると、親の対応が変わります。
【3つの理由】現実が見えた/失敗が怖い/親の期待が重い
目標を言わなくなる背景は、大きく3つに分かれます。どれに当てはまるかで、親の関わり方が変わります。
理由1:現実が見えた(成長型)
上のレベルの選手を目の当たりにして、「全国」がどれほど遠いか実感した。口にしないのは、軽く言うのが恥ずかしくなったから。本人の中では、むしろ目標が具体的になっている場合が多いです。表に出ないだけで、意欲は健在です。
見分けるサイン:練習の質が上がっている。負けた試合の後に自分から動画を見る。特定の選手や技を気にしている。
理由2:失敗が怖い(防衛型)
「全国に行く」と言って行けなかったら格好悪い。言わなければ、達成できなくても傷つかない。こう考えて、あらかじめ目標を伏せている状態です。高学年は仲間の目を強く意識する時期でもあり、「あいつ全国とか言ってたのに」と言われるのを避けたい気持ちが働きます。
見分けるサイン:「どうせ」「別に」が増える。結果を聞かれるのを嫌がる。挑戦する場面(上のカテゴリの練習、セレクション)を避けたがる。
理由3:親の期待が重い(回避型)
目標を口にすると、親がそれを「約束」として扱い始める。「全国行くって言ったよね」「そのためにもっと練習しないと」。そうなると、目標は自分のものではなく、親との契約になります。契約にされるのが嫌だから、言わない。これが3つ目です。
見分けるサイン:親の前だけ口数が減る。コーチや友達には目標を話している。スポーツの話題になると部屋に行く。
心理学者デシとライアンの自己決定理論によると、人の意欲が内側から続くには「自律性(自分で決めている感覚)」「有能感(できるという感覚)」「関係性(受け入れられている感覚)」の3つが満たされる必要があります。理由1は有能感が揺らいだ状態、理由2は有能感と関係性、理由3は自律性が脅かされた状態と整理できます。どの欲求が欠けているかを見れば、補うべきものが見えてきます。

どの理由かを見分ける質問の仕方【会話例】
「目標は何?」と正面から聞くと、どのタイプの子も黙ります。目標そのものではなく、周辺を聞くのがコツです。答えやすい順に3段階で並べます。
段階1:事実を聞く(評価しない)
「今のチームで、一番うまいと思うのは誰?」
「この前の大会で、一番すごいと思った選手いた?」
自分のことを聞かれていないので、答えやすい。ここで具体的な選手名や技が出てくれば、理由1(成長型)の可能性が高いです。上を見ている証拠だからです。
段階2:距離を聞く
「その子と自分、何が一番違うと思う?」
「あと何ができたら、その子に近づける?」
ここで「わかんない」「無理でしょ」と返るなら、理由2(防衛型)の色が濃い。「足の速さ」「キック力」と具体的に返るなら、内側に目標がある状態です。
段階3:親の位置を確かめる
「お父さん(お母さん)に言われて嫌だったこと、何かある?」
「試合のこと、話したくない時は言ってくれていいよ」
理由3(回避型)はこの質問で反応が出ます。「別に」と言いながら表情が変わったら、当たりです。ここで謝る必要はありません。「そっか、じゃあ聞きすぎないようにするね」で十分です。
NG声かけ例(目標を聞き出そうとする)
「目標は何なの? ちゃんと決めなさい」
「前は全国行くって言ってたじゃない」
「目標がないから伸びないんだよ」
OK声かけ例(周辺から聞く)
「一番うまいと思うの誰?」
「その子と自分、何が違うと思う?」
「言いたくなったら聞かせて。急がないよ」
言葉にできない子には「目標」より「やってみたいこと」を聞く
「目標」という言葉は重い。達成義務がついてくるからです。代わりに「やってみたいこと」と聞くと、子供の口は軽くなります。
「次の練習で、ひとつだけ試してみたいことある?」
「今日の試合で、できたら気持ちいいだろうなってプレー、ある?」
「やってみたいこと」は失敗しても傷つきません。試しただけだからです。でも中身は、目標の最小単位そのものです。「左足でシュートを打ってみたい」が積み重なれば、「両足で打てる選手になる」という目標になります。
親が「やってみたいこと」を聞き続けると、子供の中で「言っても大丈夫」という感覚が育ちます。これが、目標を再び口にできるようになる土台です。
NG声かけ例
「やってみたいことじゃなくて、目標を言いなさい」
「そんな小さいことでいいの?」
OK声かけ例
「いいね、それやってみて。どうだったか後で聞かせて」
「試すだけでいいよ。できなくても、試したことが大事」
親が目標を代弁してしまうリスク
子供が黙っていると、親が代わりに言ってしまうことがあります。「この子は全国を目指してるんです」「来年はセレクション受けさせようと思って」。コーチや他の保護者の前で、こう言ってしまう。
これは3つの点で危険です。
- 目標が親のものになる。本人が言っていないことを親が言うと、その瞬間から「親の目標」に変わります。自律性が奪われ、内側の意欲が下がります。
- 訂正する機会を失う。本人は「本当はそこまで思ってない」と感じていても、親が周囲に言ってしまった後では訂正しにくい。黙って合わせるしかなくなります。
- 失敗の責任が重くなる。親が公言した目標に届かなかったとき、子供は「自分のせいで親に恥をかかせた」と感じます。防衛型(理由2)が強化されます。
日本スポーツ協会が公認スポーツ指導者の理念として掲げる「プレーヤーズセンタード」の考え方でも、プレーヤー自身の意思決定を尊重することが指導の中心に置かれています。目標は本人が口にして初めて、本人のものになります。親は代弁者ではなく、聞き役に回るのが正解です。
NG声かけ例(周囲の前で)
「うちの子は全国目指してますから」
「来年はもっと上のチームに行かせます」
OK声かけ例(周囲の前で)
「本人なりに考えているみたいです」
「どうしたいかは本人に聞いてみます」
目標を小さくして再起動する方法(3ヶ月単位)
「全国」のような大きな目標は、一度しまっておいて構いません。代わりに、3ヶ月で届く目標を1つだけ立てる。これが再起動の基本です。
3ヶ月という期間には理由があります。小学生にとって半年先は遠すぎて実感がない。1ヶ月では変化が出ない。3ヶ月なら、次の大会や学期の区切りと重なりやすく、体感的に「もうすぐ」と感じられます。
3ヶ月目標の立て方(親子で15分)
- 「やってみたいこと」を3つ出す。親は書き役。評価しない。
- その中から、3ヶ月で「できた・できない」がはっきり分かるものを1つ選ぶ。「うまくなる」ではなく「試合で1回は左足で打つ」のように、回数や場面で決める。
- 紙に書いて、子供の部屋に貼る。リビングではなく、子供の部屋。親が毎日見て口を出す場所に貼ると、また親の目標になります。
- 3ヶ月後に「できたか」ではなく「やってみてどうだったか」を聞く。できていなくても、次の3ヶ月目標を一緒に決めればいい。
この小さい目標を2〜3回まわすと、子供は「目標を言っても、詰められない」ことを体で覚えます。そうなって初めて、「本当は全国に行きたい」という大きな目標が、また口から出てきます。順番を逆にしないことです。
秋〜冬は目標を立て直すのに適した時期である理由
この記事を秋に読んでいるなら、タイミングは悪くありません。理由は3つあります。
- 夏の大会で「現実」を見た直後だから。理由1(成長型)の子は、夏に上のレベルを目の当たりにしています。距離を測れた今こそ、その距離を縮める目標が立てやすい。
- 新チームで役割が変わるから。6年生が引退し、5年生は主力に、6年生は次のステージへ。役割が変わると「やってみたいこと」が自然に湧きます。
- 次の公式戦まで間があるから。秋〜冬は試合数が減り、練習中心になります。結果に追われず、3ヶ月目標を試すのに向いています。
逆に、大会直前に「目標を立て直そう」と持ちかけるのは避けてください。結果への圧力と重なって、防衛型(理由2)の子は口を閉じます。
今日からできる3つの行動
- 「目標は?」と聞くのを、今日から2週間やめる。代わりに「一番うまいと思うの誰?」と1回だけ聞いてみる。
- 次の練習の帰り道に「ひとつ試してみたいこと、あった?」と聞く。答えが出たら「いいね」だけ。出なくても「また今度ね」で終える。
- 周囲の前で子供の目標を代弁していないか、直近1ヶ月を思い返す。心当たりがあれば、次からは「本人に聞いてみます」に言い換える。
目標を言わなくなった子は、目標を失った子ではありません。言葉にする前に、自分の中で確かめている途中です。親が急がなければ、必ずまた口に出します。その言葉は、低学年の頃の「全国に行く」より、ずっと重く、本物です。
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よくある質問(FAQ)
目標を言わなくなったのは、スポーツをやめたいサインですか?
多くの場合、違います。やめたい子は練習に行きたがらない、道具の手入れをしない、試合を休みたがるなど、行動に先に変化が出ます。練習に通い、試合に出ている状態で口数だけが減ったなら、意欲は残っています。言葉にする前に自分の中で確かめている段階と考えてください。
「目標は何?」と聞くのは完全にやめるべきですか?
2週間ほど意識的にやめてみることをおすすめします。その間は「一番うまいと思うの誰?」「試してみたいことある?」のように、目標の周辺を聞きます。子供のほうから自然に目標が出てきたら、それが再開のタイミングです。親から正面切って聞く必要はほぼなくなります。
コーチや友達には目標を話しているのに、親には言いません。どうすれば?
親の前だけ黙るなら、親が目標を「約束」や「契約」のように扱った経験がある可能性が高いです。「前は言ってたよね」「そのためにもっと練習しないと」という言葉が該当します。まず「聞きすぎないようにするね」と伝え、目標を口にしても詰められない経験を積ませてください。回復には1〜3ヶ月かかると見ておきましょう。
小さい3ヶ月目標ばかりだと、全国を目指す気持ちが薄れませんか?
薄れません。むしろ逆です。大きな目標は、届く目標を達成した経験の積み重ねの上でしか本物になりません。「試合で1回左足で打つ」を達成した子は、「両足で打てる選手になる」と自分から言い出します。全国はその延長線上に、本人の言葉で再び現れます。親が先に「全国」と言わないことが大切です。
本当にやる気がなくなっている場合との見分け方は?
3つの質問で見分けられます。「一番うまいと思うの誰?」に具体的な名前が出るか。「その子と何が違う?」に具体的な差が出るか。負けた試合の後に自分から動画を見たり、特定の技を気にしたりしているか。いずれも出ない状態が1ヶ月以上続くなら、意欲そのものが下がっている可能性があります。その場合は、目標よりも「楽しかった瞬間」を聞くところから始めてください。
目標を紙に書かせるのは効果がありますか?
効果はありますが、貼る場所が重要です。リビングや冷蔵庫など親が毎日目にする場所に貼ると、親が口を出しやすくなり、目標が親のものになります。子供の部屋に貼り、親は3ヶ月後まで触れないと決めるのがおすすめです。書かせるのではなく、子供が言ったことを親が書き役として書くのも効果的です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。



