結論からお伝えします。本番で緊張している子供に「落ち着いて」「緊張するな」はNGです。緊張は打ち消そうとするほど強くなるからです。固まる子に効くのは、気持ちではなく「次の行動」を示す一言。たとえば「息を長く吐こう」です。
市大会、県大会、そして全国へ。大事な試合ほど、わが子はガチガチに固まってしまう。練習ではあんなに上手いのに——。そう感じている保護者の方は少なくありません。よかれと思ってかけた「落ち着いて」が、実は逆効果になっていることがあります。
この記事では、なぜ逆効果なのかを心理学の知見からやさしく解説し、今日からそのまま使える「言い換えの声かけ」をOK例・NG例つきで紹介します。
結論:「落ち着いて」は緊張を“打ち消そう”とさせて逆効果
まず大前提として、緊張は悪者ではありません。緊張は「うまくやりたい」という気持ちの裏返し。体を本気モードにする、自然な反応です。
問題は、その緊張を「消そう」とすること。「落ち着いて」「緊張するな」は、子供にこう聞こえます。「今の自分の状態はダメだ。消さなきゃ」。すると子供は、プレーではなく「緊張している自分」に意識を向けてしまいます。
- NG:「落ち着いて」→ 緊張を意識し続けてしまう
- OK:「息を長く吐こう」→ やるべき行動に意識が向く
ポイントはシンプルです。気持ち(状態)を指示するのではなく、行動を指示する。この記事の核心はここにあります。
なぜ「緊張するな」は逆効果なのか(シロクマ実験でわかる)
「考えるな」と言われるほど、かえって頭から離れない。これを説明するのが「皮肉過程理論(ひにくかていりろん)」です。心理学者ダニエル・ウェグナーが1987年に提唱しました(Wegner et al., 1987, Journal of Personality and Social Psychology)。
有名な「シロクマ実験」があります。参加者を3グループに分け、同じシロクマの映像を見せます。そのうえで、あるグループには「シロクマのことだけは絶対に考えないで」と伝えました。結果、映像をいちばん詳しく覚えていたのは——「考えないで」と言われたグループでした。
なぜでしょう。「考えないようにする」には、頭の片隅で「シロクマを考えていないか?」と監視し続ける必要があります。その監視のために、結局シロクマを思い出し続けてしまうのです。
これを試合に置き換えると、こうなります。
- 「緊張するな」→ 頭が「緊張してないか?」と緊張を探し続ける
- 「失敗するな」→ 頭の中が“失敗のイメージ”でいっぱいになる
運動の場面でも同じことが起こります。野球で「三振だけはするな」と思うほど三振しやすい、という研究報告もあります。「〜するな」は、その「〜」を脳に焼き付けてしまうのです。
のべ多くのアスリートを見てきたメンタルトレーナー・森川陽太郎氏も、著書『本番に強い子の育て方』(2016)で「緊張にフタをするのは逆効果。むしろ感情を自覚して、素直に受け入れることが大切」と述べています。緊張を消すのではなく、「緊張してるな、よし」と認めてしまう。それが本番で力を出す第一歩です。
言い換えのコツは“行動”を指示すること【OK/NG声かけ例】
では、何と言えばいいのか。答えは「気持ち」ではなく「行動」を一つだけ指示することです。
メンタルトレーナーの飯山晄郎氏は、緊張する選手に「落ち着け!」ではなく「息を吐いてみろ!」と声をかけるそうです(サカイク掲載)。「落ち着く」は抽象的で、何をすればいいか分かりません。でも「息を吐く」なら、子供はすぐ実行できます。行動できれば、意識は自然と緊張から離れます。
| NG声かけ(状態を指示) | なぜNGか | OK声かけ(行動を指示) |
|---|---|---|
| 「落ち着いて」「緊張するな」 | 緊張を意識させ続ける | 「息を長く、ふーっと吐こう」 |
| 「リラックス!」「力を抜いて」 | 抽象的で何をすればいいか不明 | 「肩をストンと一回落とそう」 |
| 「失敗するなよ」 | 失敗のイメージを焼き付ける | 「最初の一本だけ集中しよう」 |
| 「緊張してないよね?」 | 感情を否定され、隠そうとする | 「ドキドキするよね、それでいい」 |
| 「絶対勝て」「全国かかってるぞ」 | プレッシャーを上乗せする | 「いつも通り、楽しんでこい」 |
共通点は、OK例がすべて「今すぐできる、たった一つの動作」になっていること。指示は一度に一つだけにしてください。あれもこれも言うと、それ自体が新しいプレッシャーになります。
「緊張」を「ワクワク」に置きかえる声かけも有効
緊張とワクワクは、心臓がドキドキする・体が熱くなるなど、体の反応がよく似ています。ハーバード・ビジネススクールのA・W・ブルックス氏の研究(2014)では、本番前に「落ち着け」と言うより「ワクワクする!」と捉え直したグループのほうが、スピーチや歌、計算の成績が良かったと報告されています。
だから、こんな一言も効きます。「ドキドキするね。これ、楽しみってことだよ」。同じドキドキを“こわい”ではなく“楽しい”の合図に変えてあげるのです。

【場面別】緊張する子供への声かけ例文
同じ「行動を示す」でも、場面で温度感は変わります。そのまま使える例を並べました。
| 場面 | OK声かけ例 |
|---|---|
| 前日の夜 | 「明日が楽しみだね。やることはもう全部やったよ」 |
| 会場に着いたら | 「いつものアップから始めよう。体をあたためよう」 |
| 試合の直前 | 「最初の一歩だけ思いきり。あとは体が覚えてる」 |
| プレーでミスした直後 | 「ナイスチャレンジ。はい、次の一本」 |
| 試合のあと | 「今日いちばん頑張れたところ、どこだった?」 |
直前ほど、言葉は短く。緊張のピークでは、長い話は耳に入りません。「最初の一歩だけ」のように、具体的で小さな的をひとつ渡してあげましょう。
今日からできる3つの行動
- 「落ち着いて」を「息を長く吐こう」に置き換える。口ぐせを一つ変えるだけで、子供の意識は行動に向きます。
- 親子で“本番前の決まった動き”を1つ作る。たとえば「手をグーパー3回」「深呼吸ひとつ」。決まった動作は、心を落ち着けるスイッチになります。
- 結果ではなく「今日できそうなこと」を1つだけ一緒に決める。「最初の声出しはする」など、できそうな小さな目標(OKライン)を決めておくと、達成感が自信に変わります。
親が落ち着くことが、いちばんの声かけ
子供は、親の表情をよく見ています。親がそわそわしていると、その緊張は子供に伝わります。逆に、親がどっしり構えていれば、それだけで子供は安心します。声をかける前に、まず自分が一呼吸。これがいちばんの声かけです。
発達心理学が専門の富山尚子教授(東京成徳大学)は、緊張する子には「どれくらいできそう?」と聞くのが効果的だと言います。「全部は無理かも」と言うなら、「じゃあ最初のサーブだけは?」と、できそうなことを一緒に探す。子供が「それならできる」と思えた瞬間、緊張はふっとゆるみます。
「がんばれ」「絶対できる」と背中を押したくなりますが、それはときにプレッシャーになります。押すのではなく、「できそうなこと」を一緒に見つける。それが、固まる子をほぐす関わり方です。
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まとめ
「落ち着いて」「緊張するな」は、緊張を消そうとさせて逆効果。緊張は「ある」と認めたうえで、気持ちではなく“次の小さな行動”を一つだけ示すのがコツです。「息を長く吐こう」「最初の一歩だけ」。そして、親自身が落ち着くこと。今日の試合から、口ぐせを一つ変えてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 「がんばれ」も言わないほうがいいですか?
「がんばれ」自体が悪いわけではありません。ただ、すでに精いっぱい緊張している子には、追い打ちに感じられることがあります。気になるときは「楽しんでこい」「いつも通りでいいよ」に置き換えると、肩の力が抜けやすくなります。
Q. もう「落ち着いて」と言ってしまいました。手遅れですか?
大丈夫です。一度の声かけで決まるものではありません。次から「息を長く吐こう」のように行動を示す言葉に変えていけば十分です。完璧を目指さず、口ぐせを少しずつ入れ替えていきましょう。
Q. 何を言っても、本番で固まってしまいます。
固まるのは、それだけ本気な証拠です。まずは「緊張してもいい」と認める声かけから始めてください。そのうえで、本番前に決まった動作(深呼吸ひとつ、グーパー3回など)を習慣にすると、体が落ち着くスイッチを覚えていきます。効果はすぐでなくても、回数を重ねるほど安定します。
Q. 親の私のほうが緊張してしまいます。
とても自然なことです。だからこそ、声をかける前に親が一呼吸。「私もドキドキするね」と正直に言ってしまっても構いません。緊張は隠すより、認めて分かち合うほうが、親子ともにラクになります。
Q. 「ワクワクするね」は、嘘っぽくないですか?
緊張を無理に「楽しい」と言わせる必要はありません。コツは「ドキドキするね」と事実を認めたうえで、「それ、楽しみってことかもね」と“意味づけ”を添えること。否定せずに捉え直すので、子供も受け取りやすくなります。
Q. 試合直前は、声をかけないほうがいいですか?
直前は、言葉より「いつも通り」が安心材料になります。かけるなら短く一言、「最初の一歩だけ」で十分。あとは笑顔で送り出してあげましょう。言葉数より、親の落ち着いた表情が効きます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。



