試合に負けた帰り道。「審判がおかしかった」「あいつがパスをくれなかった」「グラウンドが悪かった」。子供の口から出るのは、自分以外の誰かや何かの話ばかり。親としては「言い訳するな」と言いたくなります。
結論から言います。負けを人のせいにする子供への声かけは、「言い訳するな」と断じないこと。まず受け止め、次に事実を並べ、最後に「自分の分」だけを切り出す。この3ステップで、子供は自分から「自分はどうだったか」を口にするようになります。
人のせいにするのは、性格の問題でも、根性が足りないからでもありません。悔しさとショックから自分を守るための、ごく自然な反応です。責めれば守りが強くなり、振り返りはできなくなります。この記事では、言い訳の正体、3タイプの見分け方、場面別のOK/NG声かけ例、そして1週間で「自分はどうした?」が自分から出てくるまでの導き方を紹介します。
まず結論|「言い訳するな」と言わずに事実へ戻す第一声
試合直後に言い訳が出たら、親の第一声はこれだけで十分です。
OK第一声:「審判はそう見えたんだね。悔しかったね」
ポイントは、同意も否定もしないこと。「そう見えたんだね」は、子供の見え方を受け取っただけで、審判が悪かったと認めたわけではありません。そして、その後に続く言葉が勝負です。
OK第二声(落ち着いてから):「で、自分のプレーで変えられたところって、どこかあった?」
この2つの間には、時間を置きます。試合直後は第一声だけ。第二声は車の中か、家に着いてから。早くても30分後です。この「間」が、言い訳を振り返りに変えるいちばんのコツです。
NG第一声
「言い訳するな」「人のせいにするな」「審判なんてそんなもんだ」「じゃあ自分はどうなの?」
どれも正論です。でも、正論は守りに入っている子供には届きません。むしろ、守りを固くします。その仕組みを次で説明します。
人のせいにするのは逃げではなく「自分を守る反応」である
負けた直後の子供の心の中は、こうなっています。
- 悔しい
- 恥ずかしい(親やチームメイトに見られていた)
- 怖い(自分が下手なのかもしれない)
この3つが一度に押し寄せると、小学生の心はそれを受け止めきれません。そこで無意識に働くのが「自分以外に原因を置く」という動きです。「審判のせい」と言えば、「自分が下手だったかもしれない」という一番怖い考えを、いったん脇に置けるからです。
スポーツ心理学の基礎理論として指導者養成でも扱われる帰属理論(ワイナー、1985年)によると、人は結果の原因を「自分の内側か外側か」「変えられるか変えられないか」などの軸で無意識に振り分けています。負けの原因を「審判」や「仲間」といった外側に置くと、自尊心は一時的に守られます。一方で、原因を「自分の努力」という内側で変えられるものに置けると、次への意欲につながるとされています。
つまり、人のせいにする子は「自尊心を守るモード」に入っているだけです。親の仕事は、そのモードを責めることではなく、安全に「努力に目を向けるモード」へ切り替えてあげることです。
もう一つ、心理学者キャロル・ドゥエックが提唱した「マインドセット」の考え方も参考になります。ドゥエックによると、能力は固定されていると考える子(固定マインドセット)は、失敗を「自分の能力の低さの証明」と受け取るため、失敗を認めることを避けやすい。能力は伸ばせると考える子(成長マインドセット)は、失敗を「次への情報」と受け取れる。言い訳の多さは、実は「失敗が怖い」という気持ちの強さの裏返しです。
責めると悪化する理由|防衛が強まり振り返りができなくなる
「人のせいにするな」と言われたとき、子供の中で起きていることを想像してみてください。
子供は「審判のせい」と言うことで、やっと「自分が下手かもしれない」という考えから目をそらせたところです。そこに親が「人のせいにするな」と言う。これは、子供にとって「お前が下手だったんだ」と突きつけられるのと同じです。
すると子供は、さらに強い言い訳を探します。「だってコーチがあのポジションにしたから」「みんなも審判がおかしいって言ってた」。あるいは、黙り込みます。どちらも、守りが強くなった状態です。
この状態では、振り返りはできません。振り返りとは「自分のプレーを客観的に見る」作業です。心が守りに入っている子は、自分のプレーを見ることそのものが怖い。だから、責めれば責めるほど、本当に必要な振り返りから遠ざかります。
親がやるべきことは、まず「ここは安全だ」と子供に伝えること。安全だと感じて初めて、子供は自分のプレーを見られるようになります。
3タイプの見分け方|本当に不運だった/視野が狭い/自信が揺れている
「人のせいにする」と一口に言っても、中身は3つに分かれます。タイプによって、親の返し方の重心が変わります。
タイプ1:本当に不運だった子
明らかな誤審があった、相手の反則が流された、グラウンドの状態が悪くて転んだ。こうした「本当に外側に原因があった」ケースです。
見分け方:子供の話が具体的で、他の保護者や指導者も同じことを言っている。
この場合、親が「でも自分にもできることが」と急ぐのは逆効果です。まず「それは本当に悔しいね」と、理不尽さをしっかり認めること。その上で、「でも試合には、審判が関係ない時間もたくさんあったよね」と、視野を広げる方向に進みます。
タイプ2:視野が狭くなっている子
「パスが来なかった」「あいつが取られた」など、仲間の1プレーだけを原因にしているケース。負けた試合の中で、自分が関わったプレーが見えていない状態です。
見分け方:話が一つのプレーに集中している。「他には?」と聞くと答えに詰まる。
このタイプには、事実を一緒に並べる作業が効きます。「前半はどうだった?」「あの場面の前、自分はどこにいた?」と、時間軸を広げて聞いていくと、自分のプレーが見えてきます。
タイプ3:自信が揺れている子
最近ミスが続いている、スタメンを外された、年下に抜かれたなど、自信が下がっている時期に言い訳が増えるケース。言い訳の内容は毎回違い、何でもいいから外に原因を置きたい状態です。
見分け方:言い訳が増えたのが「ここ数週間」と時期が限定できる。普段はそこまで言い訳しない子だった。
このタイプには、振り返りよりも先に「自信の回復」が必要です。できているプレーを親が具体的に言葉にすること。「今日のあの1本目の守備、よく戻ったね」。事実に基づく小さな承認を積んでから、振り返りに入ります。

返し方3ステップ|受ける → 事実を並べる → 自分の分だけ切り出す
3タイプに共通する、返し方の基本形です。順番を守ることが何より大切です。
ステップ1:受ける(試合直後〜30分)
子供の言い分を、同意も否定もせずに受け取ります。
- 「審判はそう見えたんだね」
- 「パスが来なくて、もどかしかったんだね」
- 「そう思ったんだ。悔しかったね」
ここで使うのは「〜だったんだね」「〜と思ったんだね」の形。子供の「見え方」を受け取る言葉で、親の判断は入れません。このステップでは、絶対に次へ進まないこと。親が「でも」と言った瞬間に、受け止めは消えます。
ステップ2:事実を並べる(帰り道〜夕食)
気持ちが落ち着いたら、試合で起きたことを時系列で一緒に並べます。原因探しではなく、ただの「出来事の整理」です。
- 「前半はどんな流れだった?」
- 「点を取られたのは、どのあたり?」
- 「その前の時間、自分はどこにいた?」
ここでの親の役割は、質問するだけ。評価はしません。「あの時こうすればよかった」は言わない。子供が自分で話すうちに、「審判」以外の出来事がたくさんあったことに、自分で気づきます。
ステップ3:自分の分だけ切り出す(翌日以降)
最後に、負けの原因の中から「自分が変えられる分」だけを切り出します。全部を自分のせいにさせる必要はありません。
- 「審判のことは変えられないとして、自分のプレーで変えられたところ、1つあるとしたらどこ?」
- 「次の試合で、1つだけ試すとしたら何?」
「1つだけ」が重要です。小学生に「全部自分の責任だ」と求めると、タイプ3の子は潰れます。「審判のこともあったけど、自分のこれも直せる」。この両方を持てる状態が、ゴールです。
場面別OK/NG声かけ例|試合直後・帰り道・翌日の振り返り
試合直後(会場で)
OK
「お疲れさま。審判のこと、そう見えたんだね」
「悔しいね。帰りに聞くから、今は水飲んで」
NG
「人のせいにするな」
「お前のあのミスが原因だろ」
「審判に文句言う暇があったら練習しろ」
会場には他の保護者もチームメイトもいます。ここで振り返りに入るのは、公開処刑と同じです。直後は受けるだけ。
帰り道(車の中)
OK
「前半はどんな感じだった?」
「あの失点の前、自分はどこにいたの?」
「よかったプレー、1つ教えて」
NG
「だから言ったでしょ」
「言い訳ばっかり。いつもそうだよね」
「じゃあ審判が良ければ勝てたの?」
「いつも」「ばっかり」は、今日の出来事を人格の話にしてしまう言葉です。守りが一気に強くなります。
翌日の振り返り
OK
「昨日の試合で、自分で変えられたことが1つあるとしたら?」
「次の練習で試したいこと、ある?」
「審判のことは置いといて、自分の分だけ考えてみよう」
NG
「昨日のこと、反省した?」
「結局、全部自分のせいでしょ」
「もう昨日のことは忘れなさい」
「反省した?」は、答えが「はい」しかない質問です。子供は形だけ「はい」と言い、中身は何も動きません。
言い換え表|子供のセリフ → 親の返し(10パターン)
よく出る言い訳と、それぞれへの返し方をまとめました。すべて「受ける」か「事実に戻す」のどちらかの形になっています。
| 子供のセリフ | 親の返し |
|---|---|
| 審判がおかしかった | そう見えたんだね。審判が関係ない時間は、どうだった? |
| あいつがパスをくれなかった | もどかしかったね。その時、自分はどこで待ってたの? |
| 相手が反則ばっかりだった | やりにくかったね。反則されない場面は、どう戦えた? |
| コーチがあのポジションにしたから | 慣れないところだったんだね。そこで1つできたこと、ある? |
| グラウンドが悪かった | 相手も同じグラウンドだったよね。向こうはどう対応してた? |
| みんなが声を出してなかった | 静かだったんだね。自分は何回くらい声を出せた? |
| 相手が強すぎた | 強かったね。その中で、通用したことは1つあった? |
| 眠かった・体が重かった | そうだったんだ。前の日、何時に寝たか覚えてる? |
| 運が悪かった | 運もあるよね。運じゃないところで、自分が決められたことは? |
| 別に。わかんない | 今は話したくないんだね。寝る前にまた聞くね |
最後の「別に」は、言い訳ではなく「守りが最大まで強い状態」のサインです。追わないこと。時間を置けば、必ず話せるタイミングが来ます。
本当に理不尽だった時はどうするか|親が代弁していい線引き
「人のせいにするな」と言わない方針を続けていると、親自身が迷う場面が出てきます。明らかな誤審や、相手チームの危険なプレーがあった時です。
結論は、「子供の前では事実を認め、動くのは大人の経路で」です。
子供には「あれは確かに判定がおかしかったね」と認めてかまいません。子供が見たものを親が否定すると、「お母さん(お父さん)はわかってくれない」という別の問題が生まれます。
ただし、親が審判や相手チームに直接抗議する姿を、子供に見せないこと。それを見た子供は「負けは外に文句を言えば済む」と学びます。本当に問題があるなら、チームの指導者に冷静に伝える。それが大人の経路です。
線引きの目安は3つ。
- 安全に関わること(危険なプレー、ケガにつながる判定)は、指導者に伝える
- 勝敗に関わる判定ミスは、子供と「悔しいね」を共有するにとどめる
- どちらにしても、子供の前で審判や相手の悪口は言わない
「悔しいね」を共有した上で、「でも、判定に左右されないくらい差をつけるのが次の目標だね」と前を向けると理想的です。
1週間で変わる|「自分はどうした?」が自分から出るまでの導線
3ステップを一度やっただけでは、習慣は変わりません。ただ、1週間続けると、子供の言葉は目に見えて変わります。目安の流れです。
1〜2日目:受けるだけ
言い訳が出ても、「そう見えたんだね」「悔しかったね」だけ。振り返りには入らない。子供が「この人は責めてこない」と確認する期間です。
3〜4日目:事実を並べる質問を1つだけ
「前半はどうだった?」のような、評価を含まない質問を1つだけ。答えが出なくても追わない。
5〜6日目:「自分の分」を1つだけ聞く
「自分で変えられたところ、1つあるとしたら?」。ここで初めて、自分に目を向ける質問をします。答えが「別にない」でも、「そっか」で終えてOKです。
7日目:子供から出てくるのを待つ
ここまで来ると、多くの子は練習や試合の後に自分から「今日、あそこは自分のミスだった」と言い始めます。言ったときの親の反応が、仕上げです。
OK:「自分で気づけたんだ。それ、すごいことだよ」
NG:「そうだよ、だから言ったじゃん」「やっと認めたね」
自分のミスを口にした瞬間に責められたら、二度と口にしなくなります。「気づけたこと」そのものをほめる。これが、自責の言葉を定着させる唯一の方法です。
今日からできる3つの行動
- 次の試合後、最初の一言を「そう見えたんだね」に固定する。どんな言い訳が出ても、この一言だけ。振り返りは最低30分あけてから。
- 「いつも」「ばっかり」を封印する。今日の出来事を人格の話にしない。言いそうになったら、「今日は」と言い換える。
- 言い換え表から1つ選んで、口に出す練習をしておく。とっさに出る言葉は、事前に用意した言葉だけです。
まとめ|言い訳は「守り」のサイン。責めずに事実へ戻す
負けを人のせいにする子供は、ずるいわけでも、根性がないわけでもありません。悔しさとショックから自分を守っている最中です。
「言い訳するな」と言えば、守りは強くなり、振り返りから遠ざかります。親がやることは、受ける → 事実を並べる → 自分の分だけ切り出す、の3ステップ。1週間続ければ、子供は自分から「自分はどうだったか」を口にし始めます。
その言葉が出た日に、「気づけたね」と言える親でいること。親の一言で、子供の振り返りの質は変わります。
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よくある質問(FAQ)
何歳くらいまで人のせいにするのは普通ですか?
低学年(小1〜小3)では、自分のプレーを客観的に振り返る力そのものが発達の途中なので、人のせいにするのはごく自然です。高学年になると自分を客観視できるようになりますが、悔しさが強い場面では年齢に関係なく守りの反応が出ます。「年齢のわりに幼い」と心配するより、負けた直後の反応だと捉えて、落ち着いてから一緒に事実を並べる習慣を作るほうが効果的です。
本当に審判がおかしかった時も、「そう見えたんだね」で済ませていいのですか?
子供の前では「確かにあの判定はおかしかったね」と事実を認めてかまいません。子供が見たものを否定すると、「親はわかってくれない」という別の問題が生まれます。ただし、親が審判や相手チームに直接抗議する姿は見せないこと。安全に関わる問題があれば、チームの指導者に冷静に伝えるという大人の経路を使いましょう。その上で「判定に左右されないくらい差をつけるのが次の目標だね」と前を向けると理想的です。
言い訳をまったく責めないと、責任感が育たないのでは?
責めないことと、振り返りをしないことは別です。3ステップの最後「自分の分だけ切り出す」で、子供は自分が変えられる部分に必ず向き合います。責められながら振り返る子は、形だけ「自分が悪かった」と言って終わりますが、安全な中で振り返った子は、自分から「次はこうする」と考えます。責任感とは「全部自分のせいだと認めること」ではなく、「自分で変えられる部分を見つけて動くこと」です。
「別に」「わかんない」としか言わない時はどうすればいいですか?
「別に」は言い訳ではなく、守りが最大まで強くなっているサインです。追わないでください。「今は話したくないんだね。寝る前にまた聞くね」と一度引き、時間を置きます。夕食後や寝る前、翌日の練習前など、落ち着いたタイミングで「前半はどうだった?」のような、評価を含まない質問を1つだけ投げます。それでも出なければ、その日は終わりにして問題ありません。1週間の中で、必ず話せるタイミングは来ます。
チームメイトのせいにして、仲間との関係が悪くなりそうで心配です。
「あいつがパスをくれない」が続くと、チーム内の人間関係に影響が出ることがあります。この場合も基本は同じで、「もどかしかったね」と受けた上で、「その時、自分はどこで待ってた?」と事実に戻します。仲間の1プレーだけに視野が狭くなっているタイプが多いので、自分の動きが見えてくると、仲間への不満は自然と減ります。仲間を責める言葉がチーム内で口に出ている場合は、「家では言っていいけど、チームでは言わない」という線引きを一緒に決めておくと安心です。
親自身が、負けを審判や相手のせいにしてしまいます。
親が「あの審判はひどかった」と帰り道で言えば、子供は「負けは外に原因を置いていい」と学びます。子供の言い訳が気になるときは、まず親自身の口ぐせを見直すのが近道です。審判や相手への感想は、子供のいないところで配偶者や他の保護者と共有する。子供の前では「悔しかったね」と気持ちの共有にとどめる。この切り分けだけで、子供の言葉は変わります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。



