結論です。誤審で負けた試合の子供への声かけは、「悔しさは100%認める。でも負けた理由の説明は親からしない」。この2つだけ守れば、理不尽な負けは子供を強くする材料に変わります。
明らかなアウトがセーフになった。ゴールが認められなかった。相手のファウルが流された。そして負けた。子供は泣き、親のあなたも胸の奥が熱くなる。「あの判定さえなければ」。そう思うのは、親として当然です。
でも、ここからの数時間が分かれ道です。親が一緒に審判を責めると、子供は「負けたのは自分のせいじゃない」と学習します。この記事では、試合直後から翌日までの声かけを、OK/NG例つきで具体的に解説します。抗議すべき場合の線引きも扱います。
結論:悔しさは100%認める。原因の説明は親からしない
誤審で負けた日、親がやることは2つだけです。
- 悔しさを、否定も評価もせずに受け止める(「悔しいよね」で終わる)
- 「なぜ負けたか」を親の口から語らない(審判のせいにも、本人のせいにもしない)
どちらも簡単そうに見えて、感情が高ぶった直後には難しいものです。特に2つ目。「あれは絶対アウトだった」と言いたくなる衝動は、親の愛情から来ています。だからこそ、あらかじめ「言わない」と決めておく必要があります。
なぜ言ってはいけないのか。次の章で、子供に起きる変化を見ていきましょう。
親が一緒に審判を責めると子供に起きる3つの変化
スポーツ心理学には「原因帰属理論」という考え方があります。心理学者B.ワイナーによると、人は結果の原因を「自分の内側(努力・能力)」か「外側(運・審判・相手)」のどちらに置くかで、その後の行動が大きく変わるとされています。誤審のあとの親の一言は、この「原因の置き場所」を決めてしまいます。
変化1:「負けたのは自分のせいじゃない」が口癖になる
親が「審判がひどかった」と言えば、子供はその日の負けを「外側」に置きます。1回なら問題ありません。しかし繰り返されると、負けるたびに理由を外に探す癖がつきます。「ピッチが悪かった」「相手がラフだった」「風が強かった」。これでは反省が生まれず、次の試合に持ち越せるものがありません。
変化2:判定への不満で試合中の集中が切れる
家で「判定は理不尽なもの」と刷り込まれた子は、試合中に微妙な判定が出るたびに審判を見るようになります。その一瞬、ボールから目が離れます。相手はもう次のプレーに移っています。判定に引きずられる選手は、実力とは別のところで負け続けます。
日本サッカー協会(JFA)は「リスペクト・フェアプレー」の取り組みの中で、リスペクトを「大切に思うこと」と定義し、審判もサッカーを共につくる仲間として尊重する姿勢を広めています。判定に文句を言わない選手が評価されるのは、礼儀の問題だけではなく、集中を切らさない実利があるからです。
変化3:「文句を言えば変わる」と誤解する
もっとも見落とされがちなのがこれです。親がスタンドから審判に声を上げる姿を見た子は、「不満は声に出せば通る」と学びます。しかし競技規則の多くは、判定に対する抗議を認めていません。たとえばサッカーの競技規則(IFAB)第5条では、プレーに関する事実についての主審の決定は最終であると定められています。野球でも、審判の判断(ジャッジ)そのものへの異議は認められておらず、確認できるのは監督だけです。
つまり「文句を言っても判定は変わらない」が現実です。この現実を親が先に受け入れておくと、子供に伝える言葉もぶれなくなります。
「コントロールできること/できないこと」を分ける会話の型
誤審の夜に親が子供に渡せる最大の贈り物は、「分ける力」です。世の中には自分で変えられることと、変えられないことがある。強い選手は、変えられないことに感情を使いません。この考え方を、会話の型として家庭に持ち込みましょう。
会話の型(3ステップ)
- 共感:「あれは悔しいわ。お母さんも見ていて悔しかった」
- 間を置く:ここで最低10分、何も足さない。車内なら音楽でもいい
- 分ける質問:「あの判定がなかったとして、次にもっとやれることってある?」
ポイントは、3ステップ目の質問が「判定を否定しない」形になっていることです。「判定は正しかった」とも「間違っていた」とも言いません。「なかったとして」という仮定で、視線を判定から自分のプレーに戻します。
子供が「別にない」と答えたら、それで構いません。その日は種をまいただけです。翌日以降、自分から「あのときもっと早く戻れたかも」と言い出す子は少なくありません。

OK/NG声かけ例|試合直後・帰りの車内・翌日
同じ言葉でも、タイミングで効き方が変わります。3つの場面に分けて見ていきましょう。
場面1:試合直後(グラウンドで)
この時点で子供は、悔しさと怒りが混ざった状態です。言葉はほぼ入りません。必要なのは「味方がいる」という感覚だけです。
NG声かけ例
- 「あれは絶対アウトだったよね」(外的帰属の刷り込み)
- 「審判がひどかった。あれで負けたんだよ」(負けの原因を親が決めてしまう)
- 「文句言うな。審判の言うことは絶対」(悔しさの否定)
- 「泣くほどのことじゃないでしょ」(感情を軽く扱う)
OK声かけ例
- 「悔しかったね」(それだけ。理由を足さない)
- 「お疲れ。最後まで走ってたの、見てたよ」(判定と関係ない事実をひとつ)
- 「今は何も言わなくていいよ」(黙る許可を出す)
- (何も言わずに、荷物を持つ・水を渡す)
場面2:帰りの車内
車内は「密室」です。親が判定の話を始めると、子供は逃げ場がありません。逆に、親が黙っていられれば、子供のほうから話し始める場所でもあります。
NG声かけ例
- 「お父さんも審判やったことあるけど、あれはない」(親の権威で判定を否定)
- 「相手チームの親も文句言ってたよ」(周囲を巻き込んで正当化)
- 「まあ、あんな判定じゃ勝てないよ」(諦めの学習)
- 「でもさ、あのシュート決めてれば関係なかったよね」(正論で追い打ち)
OK声かけ例
- 「あれは悔しいわ。お母さんも見ていて悔しかった」(感情を共有する)
- 「言いたいこと、全部言っていいよ。10分だけ聞く」(怒りの出口を作る)
- (10分後)「あの判定がなかったとして、次にもっとやれることってある?」
- 「今日のこと、明日また話そう。今は休もう」(持ち越しの許可)
車内での会話の基本は、別記事「試合後の車内での声かけ|帰り道を反省会にしない親の言葉」でも詳しく解説しています。
場面3:翌日
一晩たつと、感情の温度は下がります。ここで初めて「次」の話ができます。ただし、親から判定の話を蒸し返す必要はありません。子供が自分から出してきたときだけ、短く受けます。
NG声かけ例
- 「昨日の判定、やっぱり動画で見てもおかしかったよ」(翌日に再点火)
- 「あの審判、次も当たったら嫌だね」(人格への不満に発展)
- 「もう忘れなさい」(処理が終わっていないのに蓋をする)
OK声かけ例
- 「昨日はよく寝られた?」(体調から入る)
- 「昨日の試合で、自分でよかったと思うプレーある?」(内側に目を向ける)
- 「次の試合、判定に関係なく決めておきたいことある?」(コントロールできる目標へ)
- 「悔しさ、まだ残ってる? 残ってていいよ」(感情の残りを認める)
それでも子供が納得できないとき|怒りを言い切らせる時間の作り方
「わかってるけど納得できない」。そう言う子もいます。当然です。理不尽さは、理屈で消えません。ここで親がやるべきなのは説得ではなく、「怒りを最後まで出し切らせる」ことです。
具体的には、次の手順をおすすめします。
- 時間を区切る:「今から10分、判定の文句を全部言っていい。お母さんは反論しない」と宣言する
- 相づちだけ打つ:「うん」「そうだったね」「それは腹立つね」。評価も助言もしない
- 10分たったら区切る:「よし、言い切った? じゃあこの話はいったん終わり」
- 体を動かす・食べる:お風呂、夕食、散歩。感情は体を通して抜ける
この「10分ルール」の目的は、怒りを消すことではなく、怒りに出口を与えることです。出口のない怒りは、翌週の練習や次の試合に姿を変えて出てきます。安全な場所で言い切った子は、翌日にはかなり軽くなっています。
本当に悔しい試合のあとは、どんな声かけをしても子供が落ち着かないことがあります。それはその日の負けが大きかった証拠です。「今日は何を言ってもダメだ」と感じたら、「明日また話そう」で切り上げるのが正解です。
親がチームや大会本部に確認していい場合/しないほうがいい場合
「一緒に審判を責めない」は、「何があっても黙っている」とは違います。線引きを明確にしておきましょう。
確認してもいいケース
- ルールの適用ミスの可能性がある(人数、交代、時間、得点の数え間違いなど、事実として確認できるもの)
- 安全に関わる問題(明らかな危険行為が繰り返し放置されている)
- 手続きが用意されている(大会要項に問い合わせ窓口や抗議手続きが明記されている)
この場合も、親が直接審判に詰め寄るのではなく、チームの監督・コーチを通すのが原則です。多くの競技規則では、審判とやりとりできるのは監督や主将に限られています。
しないほうがいいケース
- ジャッジそのものへの不満(アウト/セーフ、ファウルの有無、ラインの判定)
- その場の感情で動くとき(試合終了直後の興奮した状態)
- 子供が見ている前で(親の抗議姿勢がそのまま子供の学習になる)
日本スポーツ協会(JSPO)は「フェアプレーで日本を元気に」の取り組みの中で、行動としてのフェアプレーを「ルールを守り、審判や対戦相手を尊重し、勝っても驕らず、負けてもふてくされないこと」と説明しています。親が子供に見せる背中も、まさにここです。
もし、どうしても大会本部に伝えたいと思ったら、24時間置いてからにしましょう。翌日になっても「伝えるべきだ」と思えることだけ、監督経由で冷静に伝える。それで十分です。
判定に強い選手が身につけている「次の1プレーへの戻り方」
誤審は、なくなりません。全国大会に出るような選手ほど、判定に左右されない技術を持っています。それは「切り替えの速さ」ではなく、「戻る手順を決めている」ことです。
家庭でできる準備を3つ紹介します。
1. 「戻る合図」を親子で決める
判定に納得できないとき、体でやる動作をひとつ決めます。ソックスを上げる、手のひらを見る、深呼吸を1回する。何でも構いません。「この動作をしたら次のプレーに戻る」と決めておくと、感情から動作へ、動作から次のプレーへと橋がかかります。
2. 「誤審は起きるもの」と事前に話しておく
試合前に「今日、納得いかない判定が1回はあると思う。そのとき、どうする?」と聞いておきます。起きてから対処するより、起きる前に想定しておくほうが、はるかに立ち直りが早くなります。
3. 家でも「変えられないこと」に文句を言わない
雨、渋滞、天気、審判。親が日常で「変えられないこと」に文句を言い続けると、子供も同じ習慣を持ちます。逆に「雨だから室内でできることやろう」と切り替える親の姿は、そのまま子供の切り替え力になります。
別記事「審判に文句を言う子供への声かけ」では、子供自身が判定に不満を口にするクセへの対応を詳しく解説しています。
今日からできる3つの行動
- 「悔しかったね」だけで止める練習:次の試合の帰り道、最初の一言に理由を足さない。判定に限らず、すべての負けで使える
- 「10分ルール」を家族に宣言する:「納得いかない試合のあとは、10分だけ全部言っていい。親は反論しない」と先に決めておく
- 「戻る合図」を親子で決める:次の練習までに、判定に納得できないときの動作をひとつ決めておく
まとめ:理不尽な負けは「分ける力」を育てる最高の教材
- 誤審の夜に親がやることは「悔しさを100%認める」「原因の説明をしない」の2つだけ
- 親が審判を責めると、子供は負けの原因を外に置く癖がつき、試合中の集中も切れる
- 「あの判定がなかったとして、次にもっとやれることは?」で視線を内側に戻す
- 怒りは10分だけ言い切らせる。出口のない怒りは次の試合に持ち越される
- 抗議はジャッジではなくルール適用ミスや安全の問題に限り、監督を通して翌日以降に
誤審で負けた日は、親にとっても試練です。でも、この日に「変えられないことに感情を使わない」姿を見せられた親の子は、次の理不尽にも立ち向かえるようになります。判定は変えられません。でも、その夜の一言は、あなたが選べます。
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- 審判に文句を言う子供への声かけ|判定への不満を成長に変える親の関わり方
- スポーツの「24時間ルール」とは|試合後すぐ親が口出ししない理由
よくある質問(FAQ)
本当に明らかな誤審でした。それでも「審判が間違っていた」と言ってはいけませんか?
事実として誤審だった場合でも、親の口から「審判のせいで負けた」と結論づけるのは避けましょう。伝えるなら「あの判定は納得いかなかったね。でも判定は変えられない。変えられるのは次の自分のプレーだけ」と、事実の共有と切り替えをセットにしてください。判定の是非を語ることと、負けの原因をそこに固定することは別です。
子供が「もうあの審判の試合は出たくない」と言います。
まずは「それくらい悔しかったんだね」と受け止めてください。その上で、「審判は毎回違うし、誰が吹いても納得いかない判定は起きる」と、特定の審判から一般的な現実へと話を広げます。数日たっても同じことを言う場合は、判定以外に理由(緊張、チーム内の問題など)が隠れていることもあるので、ゆっくり聞いてみましょう。
相手チームの保護者が審判にヤジを飛ばしていました。うちの子にはどう説明すればいいですか?
「あの人たちは間違っている」と批判するより、「うちは判定に文句を言わない。それが強い選手のやり方だから」と、自分の家の基準を淡々と伝えるのがおすすめです。他人の行動の評価に時間を使うより、自分たちの基準を明確にするほうが、子供には残ります。
親自身が納得できず、気持ちが収まりません。
親も人間です。悔しくて当然です。ただ、その処理を子供の前でやらないことが大切です。パートナーや同じチームの信頼できる保護者に、子供のいない場所で吐き出してください。SNSに書くのは避けましょう。翌日まで残った気持ちだけ、監督経由で伝えるかどうか判断すれば十分です。
動画を見返して判定を検証するのはアリですか?
子供が自分から「見たい」と言った場合に限り、翌日以降であればよいでしょう。ただし目的は「判定の正誤の確認」ではなく「その前後の自分のプレーの確認」に置いてください。「あの場面、判定の前にできたことはある?」という問いかけなら、動画は学びの材料になります。判定の証拠集めのために見返すのは逆効果です。
誤審で勝った場合はどう声をかければいいですか?
珍しいケースに見えて、実は多いです。「ラッキーだったね」で終わらせず、「判定に助けられた部分もあったね。それとは別に、自分でよかったプレーはどこ?」と内側に目を向けさせましょう。勝ちも負けも、原因を外に置かない習慣を揃えておくと、判定に左右されない選手に育ちます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。



