試合が止まった。ピッチの真ん中で、相手チームの子がうずくまっている。横に立っているのは、自分の子だ。接触の瞬間は見えなかった。でも、担架が来て、相手の保護者が青い顔でグラウンドに入っていくのは見えた。
結論から言います。この日の親の仕事は2つだけです。相手への誠実な対応を親が引き受けること。そして、子供に「お前が悪い」も「気にするな」も言わないこと。この2つを間違えなければ、ほとんどの場合、数週間で親子ともに元に戻れます。
そして最初の一言は「わざとじゃないよね?」ではありません。「心配だよね。今、どうなってるか聞いてこようか」です。本人の罪を確定させる前に、相手の状態を一緒に気にする側に立たせる。これが起点になります。
この記事は、市大会・県大会を戦う小学生が、自分のプレーで相手チームの子(または味方)にケガをさせてしまった日からの、親の関わり方をまとめたものです。技術やルールの是非は扱いません。扱うのは、家でかける言葉と、相手への向き合い方だけです。
この記事の要点
- この出来事には2つの別問題が同時に起きている。①相手と相手の家への対応(これは親の仕事)②子供の内側の処理(これが本人の仕事)。混ぜると両方失敗する
- スポーツの最中は、学校にいる時より相手への共感が下がり、「仕方ない」と切り離す傾向が強まることが研究で示されている(Kavussanu & Ring, 2021)。だから子供の「平気そう」は本心とは限らない
- 子供の反応は縮む子/平気に見える子/怒る子の3タイプ。見分け方は「相手のことを聞いてくるか」
- 謝罪は親が主役で、子供は同席。小学生に謝罪の説明責任を背負わせない
- 知っておくと落ち着ける2つの事実=スポーツ安全保険の賠償責任(中学生以下は年額800円で対人1人2億円)と、通常のプレー中の事故で親の監督責任を否定した最高裁判決(平成27年4月9日)
- 親の3つの逆走は、プレーを責める・なかったことにする・相手の家を悪者にする
- この後プレーが縮んだら、戻す合図は「強気」ではなく「自分が守るべき基準」に置き換える
まず分ける|この日に起きているのは「2つの別問題」
相手の子にケガをさせた日、親の頭の中はぐちゃぐちゃになります。相手の保護者の顔、治療費、チームへの迷惑、そして我が子の泣き顔。全部が同じ重さで押し寄せてきます。
ここで最初にやることは、問題を2つに分けることです。この2つは、担当者が違います。
| ①相手と相手の家への対応 | ②子供の内側の処理 | |
|---|---|---|
| 担当 | 親とチーム(指導者) | 子供本人(親は環境を整えるだけ) |
| やること | 状態の確認、連絡、謝罪、保険手続き | 罪悪感をどう置くか、次にどう動くか |
| 時間 | 数日〜数週間で片づく | 数週間〜数ヶ月かかることがある |
| 子供の関与 | 同席はする。説明や交渉はさせない | 本人が主役。親は代行できない |
| よくある失敗 | 子供に謝罪を全部やらせる/逆に完全に隠す | 親が結論(悪い/悪くない)を先に出してしまう |
この2つを混ぜると、典型的な失敗が起きます。相手への対応を急ぐあまり、子供の前で「本当にすみません、この子がちゃんと見ていなくて」と言ってしまう。親としては誠意のつもりでも、子供の耳には「お前のせいだ」という判決として残ります。
逆に、我が子を守るあまり相手への対応が薄くなると、子供は「うちは悪くないことにしたんだ」と学びます。どちらも、本人が自分でこの出来事を処理する機会を奪います。
分けるための一言(相手の前で言う)
相手の保護者に対しては、「うちの子のプレーで申し訳ありません。治療のことは全部こちらで対応させてください」と、親が主語で引き受けます。子供には横で頭を下げさせるだけで十分です。
理由の説明、過失の整理、費用の話は、子供を同席させない場所でやってください。
研究が示す仕組み|スポーツの中では「相手への共感」が下がる
「あんなことをしておいて、平気な顔をしている」。この日、我が子を見てそう感じた方は少なくありません。ですがこれは、子供の人格の問題というより、スポーツという場で起きやすい心の動きとして研究されています。
Maria Kavussanu と Christopher Ring の研究(Psychology of Sport and Exercise 第53巻, 101835, 2021年)は、サッカーをする12〜18歳の青少年602名(男子296名・女子306名)を対象に、同じ人物が「スポーツの場」と「学校の場」でどう振る舞うかを比較しました。結果はこうです。
スポーツの場と学校の場の比較(Kavussanu & Ring, 2021)
- 道徳的な切り離し(moral disengagement)はスポーツの場のほうが高い。「競技だから仕方ない」「相手も覚悟してやっている」と、行為の重さを薄める考え方が働きやすい
- 共感(empathy)はスポーツの場のほうが低い。相手の痛みに意識が向きにくい
- この「切り離し」の高さが、スポーツでの相手やチームメイトに対する反社会的な行動の多さを部分的に説明していた
出典:Kavussanu, M., & Ring, C. (2021). Bracketed morality in adolescent footballers: A tale of two contexts. Psychology of Sport and Exercise, 53, 101835.(研究1:13〜17歳の男子190名/研究2:12〜18歳の602名)
ここから、親にとって実用的な結論が2つ出ます。
- 直後に平気そうに見えても、本心だと決めつけない。試合中の脳は「切り離す」モードに入っています。家に帰って服を脱いで、風呂に入って、布団に入った頃に、ようやく相手の子の顔が浮かんできます。崩れるのは夜です
- 逆に、直後から泣き崩れている子を「大げさだ」と思わない。切り離しが働かずに全部受け取ってしまうタイプの子は、その場で潰れます。どちらも正常な範囲の反応です
つまり直後の表情から、本人の罪悪感の量は読めないということです。だから親は、直後の様子で対応を決めてはいけません。
子供の反応は3タイプ|見分けるカギは「相手のことを聞いてくるか」
反応は大きく3つに分かれます。どのタイプかで、かける言葉がまったく変わります。見分ける手がかりは表情ではなく、本人が相手の子の状態を自分から聞いてくるかどうかです。
| タイプ | 見える様子 | 内側で起きていること | 親の方針 |
|---|---|---|---|
| A 縮む子 | 泣く/黙る/「もう試合に出たくない」と言う | 相手の痛みを全部自分の責任として抱えている | 罪悪感を否定せず、行動に変換させる |
| B 平気に見える子 | ゲームをする/普通に食べる/話題を変える | 処理が追いついていない。または怖くて触れていない | 追及せず、情報だけ渡す。崩れる夜を待つ |
| C 怒る子 | 「向こうが勝手に飛び込んできた」と言う/審判を責める | 自分を守るために他に原因を置いている | 事実の確認を一度だけ。相手の状態に話を戻す |
見分け方は単純です。「あの子、大丈夫だったのかな」と本人が自分から言うかどうか。Aの子は言います。Bの子は言いません(言えません)。Cの子は言わずに「でも」で始めます。
注意したいのは、BとCを「反省していない」と読んではいけないことです。前の章の研究が示すとおり、スポーツの場では切り離しが働きます。本人がまだ処理できていないだけで、人として冷たいわけではありません。ここで「お前は人の痛みが分からないのか」と言ってしまうと、罪悪感ではなく親への恐怖が残ります。
タイプを決めつけずに済む確認の仕方
「ねえ、あの子どうなったか、お父さん聞いてみようと思ってるんだけど、聞いたら教えたほうがいい?それとも今は聞きたくない?」
相手の情報を「渡す/渡さない」を本人に選ばせる質問です。これなら、Bの子を追い詰めずにドアだけ開けておけます。
4場面の声かけ|直後/帰宅後/その夜/翌日以降
同じ出来事でも、時間帯で必要な言葉が変わります。順番を間違えると、言葉の中身が正しくても届きません。
① ケガをさせた直後(グラウンドで)
ここで親がやることは、言葉より位置取りです。子供の横に立って、一緒に相手の方を見る。評価も慰めもまだ早い。
OK声かけ例
- (相手の方を一緒に見ながら)「心配だね。今、どんな様子か聞いてくるね」
- 「君はここで待ってて。コーチの指示を待とう」
- (相手の保護者に、子供と並んで)「うちの子のプレーで申し訳ありません」
- 「今は試合のことは考えなくていい。あの子のことだけ考えてていいよ」
NG声かけ例
- 「わざとじゃないよね?ね?」(本人に弁明を強いる)
- 「だから言ったでしょ、あんな行き方したら危ないって」
- 「そんなに強く行ってないよね、見てたから大丈夫」(事実確認の前に結論)
- 「はい、謝ってきなさい。ちゃんと自分の言葉で説明して」(小学生に説明責任を負わせる)
一番やってしまいがちなのが、相手の保護者の前で子供に説明させることです。小学生は、焦ると「だって」から話し始めます。それが相手の家には言い訳に聞こえ、話をこじらせます。説明は親がしてください。
② 帰宅後(家に着いて最初の1時間)
ここでやることは情報を渡すことだけです。説教の時間ではありません。
OK声かけ例
- 「コーチから連絡あった。骨は折れてないって。しばらく安静だそうだよ」
- 「向こうのお父さんに謝ってきた。『お互い様だから』って言ってくれたよ」
- 「連絡が来たらすぐ教えるね」
- 「お腹すいてるでしょ。食べてから話そう」
NG声かけ例
- 「で、どういうつもりだったの?」(取り調べ)
- 「もうこの話はおしまい。忘れな」(なかったことにする)
- 「相手の親、すごい顔してたよね」(親の不安を子供に預ける)
- 「明日ちゃんと謝りに行くからね」(本人の同意なしに予定を確定)
「安静で済んだ」「骨折だった」——結果の重さを正確に伝えることは、隠すことより本人を落ち着かせます。想像のほうが現実より怖いからです。
③ その夜(布団に入る前後)
前章のとおり、崩れるのはここです。試合の興奮が抜け、相手の子の顔が浮かんでくる時間帯。Bタイプの子が初めて泣くのも、たいていこのタイミングです。
OK声かけ例
- 「思い出しちゃう?それは、ちゃんと分かってるってことだよ」
- 「あの子のこと、心配でいいよ。心配なのは悪いことじゃない」
- 「全部君のせいだとは、お父さんは思ってない。でも、痛かったのは本当だよね」
- 「明日の朝、まだつらかったら教えて。練習、休んでもいいよ」
NG声かけ例
- 「気にしすぎだよ、スポーツなんだから」(罪悪感の否定)
- 「寝れば忘れるよ」(処理を飛ばさせる)
- 「もう泣くな。泣いても相手は治らないぞ」
- 「次からはもっと周り見なきゃダメだよね」(夜に技術の話)
夜に効く「罪悪感の置き直し」
罪悪感は消す必要がありません。向ける先を「自分を責める」から「相手に何かする」に変えるだけで、本人は動けるようになります。
「君が今できることは、2つしかないよ。ひとつは、あの子が戻ってきた時に普通に声をかけること。もうひとつは、同じことがもう起きないようにプレーすること。それ以外は、君がやることじゃない」

④ 翌日以降(1週間〜相手が復帰するまで)
ここからは長期戦のモードに切り替えます。毎日話題にしないこと。でも、閉じないこと。この2つの両立です。
OK声かけ例
- 「あの子、来週から歩けるようになるみたいだよ」(進捗だけ定期的に)
- 「今日の練習、どうだった?」(普通の会話に戻す)
- 「次に会った時、なんて言うか決めてる?決まってなくてもいいけど」
- 「君がプレーを弱くする必要はないよ。乱暴にしないのと、弱くするのは別だから」
NG声かけ例
- 「あの件、反省してる?」(毎日の確認)
- (まったく触れない)※ 進捗を渡さないと、本人は一人で最悪の想像を続けます
- 「向こうの親、まだ怒ってるみたいだよ」(親同士の空気を子供に流す)
- 「もうあのポジションやめとく?」(本人が言う前に撤退させる)
謝りに行くか行かないか|判断の順番と、実際の言い方
ここは多くの親が迷うところです。判断は感情ではなく、順番で決めます。
- まずチーム(指導者)に確認する。多くのチームでは、試合中の接触について保護者が直接相手の家に連絡することを避け、チーム経由にする運用をとっています。勝手に動くと、こじれます
- 相手のケガの程度を確認する。その場で治まったのか、受診したのか、全治何週間なのか。重さで必要な対応が変わります
- 接触の性質を確認する。通常のプレーの中での偶発的な接触か、ラフなプレーや感情的な行為があったのか。ここは我が子の言葉だけでなく、指導者や映像でも確認します
- そのうえで、会う/電話する/チーム経由で伝える、を選ぶ。重いケガ、または感情的な行為があった場合は、会って謝る。偶発的で軽いものは、チーム経由の伝達で足ります
謝罪に行く時の言い方(親が主語で言う3文)
- 事実と謝罪「うちの子のプレーでケガをさせてしまい、申し訳ありませんでした」
- 対応の引き受け「治療のことは、こちらで対応させてください。保険の手続きもすぐ進めます」
- 相手を気にかける一文「本人も、ずっと気にしています。回復の様子を、差し支えなければ教えていただけますか」
この3文で止めます。経緯の説明、過失の割合、「向こうも飛び込んできた」は言わない。言いたくなった時点で、それは謝罪ではなく交渉です。
子供の役割は、横に立って頭を下げ、「ごめんなさい」と言うこと。それだけです。10歳の子に経緯を説明させる場面を作らないでください。
逆に、子供を連れて行かないのも避けたい選択です。親が全部やってしまうと、本人の中でこの出来事が終わりません。相手に会って、相手が思ったより普通に話してくれた——その体験が、罪悪感を現実のサイズに戻します。
知っておくと落ち着ける2つの事実|保険と、法律の考え方
夜中に親が検索して怖くなるのは、だいたい「治療費」と「訴えられるのか」です。先に事実を置いておきます。これは法律相談ではなく、落ち着くための基礎知識として読んでください。
① スポーツ安全保険の賠償責任|中学生以下は年額800円で対人1人2億円
多くの少年団・クラブが加入している「スポーツ安全保険」(公益財団法人スポーツ安全協会)には、傷害保険だけでなく賠償責任保険が含まれています。公益財団法人スポーツ安全協会の加入区分・掛金ページ(令和8年度/2026年4月1日〜2027年3月31日)によると、中学生以下の区分A1は次の内容です。
| 項目 | 内容(中学生以下・区分A1) |
|---|---|
| 年間掛金 | 800円/1人 |
| 賠償責任(対人1人あたり) | 2億円 |
| 賠償責任(対人・対物 合算1事故) | 5億円 |
| 免責金額(自己負担) | なし |
| 対象となる場面 | 団体活動中および活動のための往復中 |
| 対象外の例 | 学校の管理下の活動、自動車の使用による賠償、故意による行為 |
つまりチームの活動中に相手にケガをさせた場合の賠償は、まず保険の枠内で考えられるということです。治療費を家計から出すことを前提に青くなる必要は、多くの場合ありません。
やることは1つ。今夜、自分の子がスポーツ安全保険(またはチーム独自の保険)に加入しているか、代表や事務担当に確認することです。加入していれば、手続きはチーム経由で進みます。
② 「通常のプレー中の事故」で親の責任を否定した最高裁判決がある
よく引かれるのが、最高裁判所 平成27年4月9日判決(第一小法廷)です。小学6年生(11歳)が放課後に校庭でゴールに向けてボールを蹴り、そのボールが門扉を越えて道路に出て、避けようとしたバイクの男性が転倒、のちに亡くなったという事案でした。
一審・二審は親の監督義務違反を認めて賠償を命じましたが、最高裁はこれを覆し、親の監督義務違反を否定しました。理由として、ゴールに向けてボールを蹴る行為は「通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為」であり、日常的な監督は一般的なものにならざるを得ない、という考え方が示されています。
この判決が親に教えてくれること
競技のルールの範囲内で、通常の方法でプレーしていた中で偶発的に起きた事故について、親が無制限に責任を負うという前提ではない——これが法律の考え方です。
裏を返せば、危険が予測できる行為や、感情的なラフプレーは話が別になります。だからこそ、前章の「接触の性質を確認する」が大事になります。
※個別の事案の判断は弁護士など専門家の領域です。ここでは「青くなる前に知っておく枠組み」として挙げています。
親の3つの逆走|善意でやって、いちばん長引かせるもの
逆走1:プレーそのものを責める
「だからあんな突っ込み方するなって言ったでしょ」。この一言は、事故の夜にもっとも出やすく、もっとも長く残ります。
問題は内容ではなくタイミングです。プレーの修正は必要ですが、それは1〜2週間後、本人が落ち着いてから、できれば指導者から。事故の当日に親が言うと、本人は「自分のプレーそのものが悪だった」と受け取ります。その結果が、次の章の「縮んだプレー」です。
逆走2:なかったことにする
「スポーツだから仕方ない。もう忘れよう」。親が傷つく姿を見たくなくて出る言葉です。でもこれは、子供が自分で処理する作業を途中で打ち切る行為になります。
前出のKavussanu & Ringの研究が示すとおり、スポーツの場ではすでに「切り離し」が働きやすい状態です。そこへ親が「仕方ない」を上塗りすると、相手の痛みを考える練習の機会がなくなります。全国を目指す子にとって、これは長期的に大きな損です。相手を尊重できる選手は、上のカテゴリーで必ず評価されます。
逆走3:相手の家やチームを悪者にする
「向こうの子が無理な体勢で入ってきたんだよね」「あのチーム、前から荒いもん」。親同士の空気が悪くなった時、つい子供の前で言ってしまいます。
これをやると、子供は罪悪感を処理する代わりに、敵を作る方法を覚えます。しかも子供は親より口が軽く、その言葉はチーム内で流通します。親の不満は、子供のいない場所で、配偶者か友人に話してください。
やってしまった後のリカバリー
言ってしまったら、その日のうちに取り消せます。
「さっきお父さんが『向こうが悪い』って言ったの、取り消すね。あれは、お父さんが不安だっただけ。君が考えることじゃない」
親が訂正する姿そのものが、この出来事でいちばん大きな学びになります。
この後プレーが縮んでしまった時|戻す合図は「強気」ではなく「基準」
この出来事のあと、よく起きるのがプレーが弱くなることです。ボールに行かない。体を当てない。守備で足が止まる。全国を目指すチームでは、これはそのまま出場機会に跳ね返ります。
ここで親がやってしまうのが「もっと強気に行け」です。これはほぼ効きません。本人が恐れているのは相手ではなく、「またやってしまう自分」だからです。強気になれと言われるほど、怖くなります。
効くのは、強弱の話をやめて「守るべき基準」に言い換えることです。
| 縮んだ時の言い方 | 基準に言い換えた言い方 |
|---|---|
| 「もっと強く行け」 | 「ボールに行くのはやる。人に行くのはやらない。この区別だけ守ろう」 |
| 「ビビるな」 | 「足から入らない。それだけ守れば、全力で行っていい」 |
| 「気にしすぎだよ」 | 「怖いのは当然。だからルールを1個だけ決めよう。何にする?」 |
| 「前みたいにやればいい」 | 「前と同じじゃなくていい。今の君の基準で全力なら、それでいい」 |
ポイントは、禁止ではなく「これを守れば全力でいい」という許可の形にすることです。禁止だけを増やすと、動けなくなります。1つ基準を決めて、それを守れていたら結果に関係なく認める。これを2〜3週間続けると、だいたい戻ってきます。
3週間以上たってもプレーに戻らない、競技に行きたがらない、夜に眠れない、相手の子の話題で体が固まる——こうした状態が続く場合は、指導者に状況を共有したうえで、学校のスクールカウンセラーや、子供の心理を扱う専門窓口に相談する段階です。放置せず、相談先を一緒に探してください。
今日からできる3つ
今日からできる行動
- 保険の加入状況を確認する(今夜・5分)
チームの代表や事務担当に「スポーツ安全保険の加入区分」を聞く。加入していれば、賠償の心配はかなり軽くなります - 相手の状態を、親が取りに行って子供に渡す(毎日ではなく2〜3日おき)
指導者経由で構いません。「安静2週間だって」と事実を渡す。想像させない。これだけで夜の様子が変わります - 基準を1つだけ、本人に決めさせる(1週間以内)
「足から入らない」「後ろからは行かない」など、本人の言葉で1つ。紙に書いて持たせなくていい。決めた事実が本人を動かします
競技別|起きやすい場面と、見ておきたい基準
競技によって、起きる形が違います。わが子の競技で「どこが境目か」を親が知っていると、落ち着いて話せます。
| 競技 | 起きやすい場面 | 本人に決めさせる基準の例 |
|---|---|---|
| サッカー | スライディング、競り合い、GKとの接触 | 足裏から入らない/後ろからは行かない |
| 少年野球・ソフトボール | クロスプレー、送球が走者や味方に当たる、デッドボール | 走路を見てから投げる/ベースを空ける |
| ミニバス | ブロック時の腕、リバウンドの着地、ディフェンスの手 | 腕は上に/着地点に人がいないか見る |
| バレーボール | ネット際の接触、味方との衝突 | 声を出してから入る |
| 柔道・剣道・空手などの武道 | 体格差のある相手への技、当て止めの失敗 | 決められた力の範囲を守る/審判の声で必ず止める |
| 陸上・水泳など個人競技 | ウォームアップ中の接触、用具の扱い | 投擲物・用具は周囲確認のあとだけ |
どの競技でも共通するのは、「ボールや的に行く」と「人に行く」の区別です。これは技術ではなく姿勢の話なので、親でも一緒に確認できます。
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よくある質問
相手の家に直接連絡して謝ったほうがいいですか?
まずチームの指導者に確認してください。試合中の接触について保護者が直接連絡することを避け、チーム経由にする運用をとっているチームが多いためです。勝手に連絡すると、かえってこじれることがあります。確認したうえで、ケガが重い場合や感情的な行為があった場合は会って謝る、偶発的で軽い場合はチーム経由で伝える、という順番で判断します。
治療費はこちらが払うことになりますか?
多くの少年団・クラブが加入している「スポーツ安全保険」には賠償責任保険が含まれます。公益財団法人スポーツ安全協会の令和8年度(2026年度)の加入区分によると、中学生以下の区分A1は年間掛金800円で、対人賠償が1人あたり2億円、対人・対物合算で1事故5億円、免責金額なしとされています。団体活動中および活動のための往復中が対象です。まずチームの代表や事務担当に加入区分を確認してください。なお、故意による行為や学校の管理下の活動は対象外です。
子供が「わざとじゃない」と言い続けて反省しません。叱るべきですか?
叱る前に、本人の状態を見てください。スポーツの最中は学校にいる時より相手への共感が下がり、「仕方ない」と切り離す傾向が強まることが研究で示されています(Kavussanu & Ring, 2021)。本心が冷たいのではなく、まだ処理できていないだけという可能性が高いです。追及せず、相手の状態という事実だけを渡し、夜まで待ってください。崩れるのはたいてい布団に入ってからです。
この一件のあと、子供のプレーが弱くなってしまいました。どう声をかければいいですか?
「強気に行け」はほぼ効きません。本人が恐れているのは相手ではなく「またやってしまう自分」だからです。強弱の話をやめて、「ボールに行くのはやる、人に行くのはやらない」「足から入らない」のように、守るべき基準を1つだけ本人に決めさせてください。禁止ではなく「これを守れば全力でいい」という許可の形にするのがポイントです。2〜3週間続けると戻ってくることが多いです。
謝罪の場に子供を連れて行くべきですか?
連れて行ってください。ただし役割は「横に立って頭を下げ、ごめんなさいと言う」ことだけです。経緯の説明や過失の整理は親が引き受けます。小学生に説明責任を負わせると、焦って「だって」から話し始め、相手には言い訳として届きます。一方で親が全部済ませてしまうと本人の中で出来事が終わらないため、同席そのものには意味があります。
ケガをさせたことで、親が訴えられる可能性はありますか?
最高裁判所 平成27年4月9日判決では、小学6年生が校庭でゴールに向けて蹴ったボールが原因で起きた事故について、ゴールに向けてボールを蹴る行為は「通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為」であるとして、親の監督義務違反が否定されました。競技のルールの範囲内で通常の方法でプレーしていた中の偶発的な事故について、親が無制限に責任を負うという前提ではありません。ただし危険が予測できる行為や感情的なラフプレーは別の評価になります。個別の判断は弁護士など専門家の領域です。
いつまでこの話題に触れ続ければいいですか?
毎日話題にする必要はありません。ただし完全に閉じないことが大事です。相手の回復の進捗を2〜3日おきに事実として渡し、それ以外は普通の会話に戻してください。情報を渡さないと、本人は一人で最悪の想像を続けます。相手が復帰して本人が普通に声をかけられたら、そこで一区切りです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。



