結論から言います。試合前は「緊張するな」「ミスするな」より、「いつも通りいこう」「楽しんでおいで」が正解です。否定形の言葉は、かえって不安を強めます。この記事では、今日からそのまま使えるOK声かけ例とNG声かけ例を、場面別にまとめました。

試合前の声かけで「結果」が変わる理由
練習ではエース級なのに、本番になると体が固まる。多くの親が抱える悩みです。原因の一つが「親の声かけ」にあります。
人の脳は、否定形の言葉をうまく処理できません。「ミスするな」と言われると、脳は先に「ミスしている自分」を思い浮かべます。「緊張するな」も同じです。やってほしくない映像を、わざわざ子供の頭に描かせてしまうのです。
だから声かけは、いつも「肯定形」に変えるのが基本です。「失敗するな」ではなく「思い切っていこう」。たったこれだけで、子供が思い描く映像が変わります。
そもそも「緊張」は悪者ではない
大前提として、緊張は敵ではありません。心理学の有名な「ヤーキーズ・ドットソンの法則」によると、覚醒度(緊張・興奮の度合い)とパフォーマンスの関係は逆U字を描きます。緊張がゼロだと集中できず力が出ない。緊張が強すぎると体が固まる。そして「ほどよい緊張」のときに、人は最高のパフォーマンスを出します。
つまり目指すのは「緊張を消すこと」ではなく「ほどよい状態に整えること」。ここを誤解すると、「緊張しちゃダメだ」と子供を追い込み、逆効果になります。
メンタルトレーナーも、緊張を打ち消すのではなく「緊張している自分を素直に受け入れること」が本番に強くなるコツだと指摘しています。「緊張してるね、それで大丈夫だよ」と認めてあげる。それだけで子供はずいぶん楽になります。
【場面別】試合前のOK声かけ例・NG声かけ例
① 緊張している様子のとき
OK例:「緊張するよね、それだけ本気な証拠だよ」「いつも通りでいこう」「ドキドキしてるのは、ちゃんと準備してきたから」
NG例:「緊張するな」「落ち着いて」「平常心、平常心」。これらは「今のお前ではダメ」というメッセージになり、自己否定を強めます。
② 自信を持たせたいとき
OK例:「あれだけ練習したんだから大丈夫」「この前のあのプレー、すごかったよね」。過去の成功体験を思い出させると、「自分ならできる」という感覚がよみがえります。
NG例:「絶対勝てよ」「負けたら承知しないぞ」。結果を背負わせる言葉は、プレッシャーにしかなりません。
③ 力みを抜いてほしいとき
OK例:「楽しんでおいで」「思い切ってやってみよう」「うまくいかなくても、最後までやりきれば100点」。
NG例:「ミスするなよ」「集中しろ」。とくに「集中しろ」は、子供が「何にどう集中すればいいか」分からず、かえって動きを固くします。
④ 直前、もう声をかけすぎないほうがいいとき
OK例:「いってらっしゃい」と笑顔で送り出す。あえて試合と関係ない雑談をする。スキンシップだけでもいい。
NG例:直前まで戦術や注意点を浴びせ続けること。情報の詰め込みは、子供の頭をいっぱいにしてしまいます。

緊張をほぐす「体」へのアプローチも効く
言葉が耳に入らないほど緊張している場面では、「体」に働きかけるのが有効です。おすすめは深い呼吸。「落ち着け」ではなく「ゆっくり息を吐いてみよう」と具体的に促します。
息を長く吐くと、副交感神経が働いて体の力が抜けます。鼻から4秒吸って、口から8秒かけて吐く。これを2〜3回。親子で一緒にやると、子供も真似しやすくなります。
今日からできる3つの行動
- 口ぐせを「肯定形」に変える。「〜するな」と言いそうになったら、「〜しよう」に言い換える。
- 送り出す一言を1つ決めておく。「いつも通りいこう」「楽しんでおいで」など、わが家の定番フレーズを用意する。
- 直前は深呼吸を一緒にする。「ゆっくり息を吐こう」と声をかけ、親も一緒に呼吸する。
よくある質問(FAQ)
Q. 「がんばれ」は言ってもいい?
悪い言葉ではありませんが、子供がすでに十分がんばっている時は「これ以上どうがんばれと?」と感じることもあります。「楽しんでおいで」「いつも通りでいいよ」のほうが力が抜けやすい場面も多いです。
Q. 何を言っても緊張がほぐれません。
言葉で消そうとしないことが大切です。「緊張してるね、それで大丈夫」と認めたうえで、深呼吸など体へのアプローチに切り替えましょう。緊張は消すものではなく、ほどよく整えるものです。
Q. 親が緊張してしまい、つい余計なことを言います。
親の緊張は子供に伝わります。送り出す一言を事前に1つ決めておくと、その場で余計な指示を足さずに済みます。「いってらっしゃい」と笑顔だけでも、子供には十分な応援です。
Q. 試合直前は声をかけないほうがいい?
子供の状態によります。落ち着いている時は短い一言で十分。すでにいっぱいいっぱいの時は、戦術の話を足さず、笑顔で見守るほうが力を発揮できます。「今この子に何が最善か」を基準に判断しましょう。
Q. 試合後はどう声をかければいい?
勝敗より先に「お疲れさま」「最後までやりきったね」と過程をねぎらいましょう。結果の振り返りは、子供が落ち着いてから。直後のダメ出しは、次への意欲をそいでしまいます。
【競技別】こんな一言が効く
基本は全競技共通ですが、競技の特性に合わせると言葉がより届きます。市大会・県大会レベルの子ほど「結果」を意識しがちなので、過程に目を向ける一言が効きます。
野球・ソフトボール
OK例:「1球ずつでいいよ」「打てなくても、次の守備で取り返せる」。失敗が目立ちやすい競技だからこそ、切り替えを後押しします。
NG例:「三振するなよ」「エラーするな」。プレーの直前に否定形を刷り込まないこと。
サッカー・バスケ
OK例:「顔を上げて周りを眺めてごらん」「ボールがなくても、走ってるのが見えるよ」。視野と運動量を肯定すると、ミスへの恐れが薄れます。
NG例:「外すなよ」「もっと声出せ」。指示の連発は思考を止めます。
水泳・陸上などの記録競技
OK例:「自分のレースをしよう」「タイムは後からついてくる」。相手ではなく自分に集中させます。
NG例:「絶対自己ベスト出せ」。数字のプレッシャーは、スタート前の体を固くします。
全国を目指す子ほど「結果から離す」声かけを
上を目指す子は、自分でも十分にプレッシャーを感じています。そこに親が結果の期待を重ねると、緊張が逆U字の「振り切れた側」へ押し上げられ、力が出なくなります。
だから声かけの役割は「期待を上乗せすること」ではなく「結果から少し離してあげること」。「勝っても負けても、あなたの価値は変わらない」という安心感が、結果的に最高のパフォーマンスを引き出します。これは矛盾ではなく、スポーツ心理学が示す王道です。
まとめ
試合前の声かけは、「緊張を消す」ためではなく「ほどよく整える」ためにあります。否定形をやめて肯定形に。結果ではなく過程と挑戦に目を向ける。そして時には、笑顔で送り出すだけでいい。親の一言で、子供の本番は確かに変わります。
参考:ヤーキーズ・ドットソンの法則(覚醒度とパフォーマンスの逆U字関係)に関するスポーツ心理学の知見、ならびに少年スポーツのメンタル指導に関する専門家の解説(サカイク等)。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・専門的指導の代わりになるものではありません。お子さんの心身に気になる様子がある場合は、専門家にご相談ください。


